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冬がやってくる。連載コラム : 河井菜摘 #3December 16, 2024
鳥取に引っ越して雪の文化に足を踏み入れた。
関西の市内地で生まれ育った私は雪かきすらしたことがなかったけど、ここでの生活は冬は雪に合わせて行動する。
昨晩初雪が降った。ぐっと気温が下がり、冷たい雨の音がするとこの雨は雪に変わるぞという緊張感が走る。雪に変わる前の冷たい雨はサーサーと軽くて鋭い音がする。
私が住んでいる地域は豪雪地帯というほどではないが、鳥取や倉吉の市内よりも雪深い。
家の周りが一面銀世界でも、車で街に買い物に出かけると雪なんてどこにもなくて嘘みたいだなといつも戸惑う。街に出てまた家に戻ってくる道のりは、白い白い世界に車で飛び込んでいくような不思議な体験だ。
雪が降るのは大変なことばかりのようにも思われるけど、一晩で景色が真っ白に変わり、音を吸収するあの静かな空間はなんともいいものだ。
雪の白いキャンパスは青空の時は一面うっすら青く、朝焼けではほのかにピンクに染まり空を映すスクリーンのよう。視界がすべて現象に覆われるあの感じは何ものにも代え難い。
音が飲まれ、雪が降ったあとの澄んだ空気の空間に立つと自分はどこまでも孤独だと感じるし、それがなぜかとても心地いい。もちろん雪かきは大変で、大雪の時はかくのに半日かかってしまうこともあるけど、自然に対してどうしたって太刀打ちできないことを思い知らされるのもまた雪の醍醐味なのだ。
edit : Sayuri Otobe
修復家 河井菜摘
1984年大阪生まれ。京都市立芸術大学、大学院にて漆工を学び、2015年に独立。漆と金継ぎがメインの修復家として活動。
陶磁器、漆器、竹製品、木製品など日常使いのうつわから古美術品まで1000点以上の修復を行う。
Instagramをきっかけに購入した鳥取の山の家で過ごしながら、京都・東京・鳥取の3拠点生活を送る。