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ワインのはなし。「記憶を閉じ込める」。 連載コラム : 山口萌菜 #1February 06, 2025
“ある一年のその土地の天候や気候、積み重なった土壌の状態、そのワインを作った人の気分。そんなものをまるでタイムカプセルのように、ボトルの中に閉じ込められるロマンティックな飲みもの”。
ワインって何かと聞かれたら私はこう答える。
昨年10月にフランスのワイナリーを訪れて強く、感じたことだ。
あぁこの年は日照りが強かったんだな、寒さが厳しかったんだな、石灰質の土壌で作っているんだな、パートナーと別れて味にブレが出た年なんだな、そんなことを五感で感じられる飲みもの。まるでタイムカプセルあるいは写真のようにいつかの記憶を呼び起こし、記憶を味わうことができるのだ。
生産者に直接会うとそのキャラクターがどれほどワインの味わいに反映されているかがよくわかる。
いつも冗談ばかり言っているおちゃらけた人、真面目でDIYが得意な几帳面な人、新進気鋭の若者でラッパーみたいな感じなのにワインのこととなるとすごく前のめりな人、愛と強さをもった人。恰幅のいいおじさん、すらっとした女性、今時な男の子。
これがレアだとか値段が高いとか製法がどうだとか、そんなことよりそのワインのキャラクターに注目すると愛すべきものが増えたような気がして、口にするその液体に俄然興味が沸く。
![ワインは記憶を閉じ込める飲みもの。 連載コラム : 山口萌菜 #1 ワインは記憶を閉じ込める飲みもの。 連載コラム : 山口萌菜 #1](https://img.andpremium.jp/2025/02/03100227/IMG_8610-1024x768.jpg)
こんなに五感に正直に記憶をレコードできる手段はどんなに文明が発達してもないかもしれない。できることなら取り扱う全ての生産者に会って、人柄や住む土地やその景色を身体全体で感じて、お客さまに伝えることができたら良いのになといつも考えている。
写真は昨年10月にとてもお世話になったアルザス地方のドゥ・ヴァン・オー・リアンでの日々。
英語が少し話せること以外何も持たない(それもフランスの田舎では意味があまりない)若輩者を家族ぐるみでとても暖かく迎えてくれた。ワイナリーのオーナー・ヴァネッサとは、ナンシーからロレーヌの畑やアルザスのセラーへ2時間ほどの車中で人生に関わるいろんな話をした。
やってみたらわかる。ワイナリーでの仕事は思う以上に体力仕事で、重労働で、この作業を女性がマネージすることの大変さ。だけれど彼女は自分なりの哲学を持って、愛情深く、強く、美しくワイン作り、畑作りをしている。
『Cyōdo』オーナー 山口萌菜
![](https://img.andpremium.jp/2025/01/02092049/IMG_1805-300x300.jpg)