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僕の風呂屋哲学。 風呂屋・相良政之#4March 25, 2025

風呂屋としての小さな哲学。 連載コラム : 相良政之#4

7年間銭湯の経営を続けてきた中で、数え切れないほどの失敗と試行錯誤を重ね、いつの間にか私なりの行動指針が確立されてきました。

今回は大小合わせて100以上溜め込んできたものから、いくつかご紹介させていただきます。

たくさん語らせてください。お願いします。

☆「銭湯の入口を最大限に広げ、あらゆる世代を受け入れる」

風呂屋としての小さな哲学。 連載コラム : 相良政之#4
風呂屋としての小さな哲学。 連載コラム : 相良政之#4

銭湯を継承する際には、必ず営業時間を延長します。店舗によっては、22時間営業のオールナイト営業を実施しているところもあります。一般的な銭湯の営業時間は15時から23時頃までと短い店が多く、現代の多様化したライフスタイルには対応できていません。

実際に長時間営業をしてみると、朝5時には高齢のお客さまが開店前から並び、昼間はママ友同士が脱衣所で談笑し、深夜には若者のグループで賑わいます。これは僕のこだわりですが、銭湯は公衆浴場である以上、万人を受け入れられるような施設でありたい。

店内には、各世代のお客さまを意識したアイテムを置き、子供、若者、家族連れ、高齢者など、それぞれの客層に合わせた品揃えを心がけています。雑誌や新聞、書籍の選定にも配慮し、誰一人として疎外感を感じることのない空間づくりを追求しています。

☆「30年後のお客さまを育てる」

風呂屋としての小さな哲学。 連載コラム : 相良政之#4

うちの銭湯は、全国的に見ても子供のお客さまの割合が圧倒的に高いのが特徴です。駄菓子コーナーや大量のアヒル風呂、絵本が読めるキッズスペース、おむつ交換台など、子連れのお客さまが快適に過ごせるような工夫を凝らしています。

子供たちはいずれ未来のお客さまになります。幼少期の原体験は、30年後に親となった彼らが、自分の子供を連れて再び銭湯を訪れるきっかけになるかもしれません。

それが自分の銭湯でなくても、銭湯へ足を運ぶきっかけになれば嬉しいです。

☆「徒歩15分圏内の地域のお客さまを大切にする」

風呂屋としての小さな哲学。 連載コラム : 相良政之#4

過疎地域などを除き、基本的には徒歩15分圏内に住んでいるお客さまを対象として、地域に根差した商売を心がけています。

遠方から週に一度来店するお客さまを増やすことも大事ですが、まずは近隣にお住まいで毎日来店してくださる常連の方を大切にします。

実際に、コロナ禍のような社会情勢の変化があった際にも、他の業種と比較して影響が少なかったのは、地域のお客さまが足を運んでくれていたからです。

毎週決まった曜日に手作りの料理を差し入れてくれる近所のお婆や、一番風呂に入るために開店前から並ぶお爺など、身近な人々の顔を浮かべながらする商売の形は面白く、やり甲斐があり、お客さま目線を忘れないために重要なことだと感じています。

☆「スタッフは幅広い年代で必ず現地採用」

風呂屋としての小さな哲学。 連載コラム : 相良政之#4
風呂屋としての小さな哲学。 連載コラム : 相良政之#4

うちの銭湯は長時間営業を行うため、10〜20名のスタッフさんを採用し、組織として運営します。スタッフを募集する際に決めていることは3つあります。

1つ目は、言わずもがなですが「良い人」を採用すること。風呂はほっこりしたい場なので、素直で前向きな人たちを集めています。

2つ目は、お客さんの世代に合わせて幅広い年齢層を採用すること。実際に10代から70代まで各世代満遍なく採用しています。幅広いお客さまを呼ぶ以上、子供を持つ親御さんの気持ちや、腰が悪く手すりが多く必要な方の気持ち、トレンドを追い続ける学生の気持ちに少しでも寄り添えるような店になりたいと思うんです。実際に一緒に働くと各年代によって全く異なる強みがあることに日々驚かされます。

3つ目は、必ず現地で採用すること。アルバイトさんから店長まで、なるべくご近所に住んでいる方を採用するようにしています。自分が別の地域からやってきた人間なので、土地の歴史に詳しかったり、地元民しか知り得ない情報が重要になってきます。店の雰囲気の大部分はそこで働く人がつくりあげるので、採用には多くの時間と労力をかけるようにしています。

☆「大規模な改修は行わない」

風呂屋としての小さな哲学。 連載コラム : 相良政之#4

銭湯は設備産業であり、15〜20年に一度、大規模な改装工事を行う店舗が多いです。しかし、僕は毎年少しずつ小さな改装を重ねていく方が良いと考えています。

3年後の未来さえ予測できない状況下で、20年安定した売上を見込める施設を作ることは、非常に難しいと思います。

社会の流れやお客さまの需要の変化に合わせて、柔軟に形を変えていくやり方を取っています。

「最も強い者が生き残るのではなく、最も変化に対応できる者が生き残る」というダーウィンの言葉にあるように、30年後も銭湯として変わらず残り続けるために、日々小さな変化を続けていきたいと思っています。

edit : Sayuri Otobe


風呂屋 相良政之

1998年福島県郡山市生まれ。全国5店舗の休廃業する銭湯を継承する会社ニコニコ温泉(株)の統括マネージャー。昭島富士見湯、品川東京浴場、長居辰巳温泉、神戸湊山温泉、塩尻桑の湯を継承し運営。全国800軒の風呂屋を巡る風呂好きです。

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