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「薪で沸かすお湯は湯冷めしにくい」は嘘かも? 風呂屋・相良政之#3March 18, 2025
「薪で沸かす銭湯はお湯が柔らかい、身体の芯まであったまり、湯冷めしにくい」
という言葉を風呂好きの間でよく聞きます。これは僕の個人的な意見ですが、僕は薪で沸かした銭湯のお湯の違いが全く分かりませんでした。いつも褒めてくれるお客さま、ごめんなさい。
800店舗以上の温浴施設を巡り、我ながら水質の違いにはわりと敏感な方で、お湯に触れれば0.5度単位で温度が分かりますし、温泉を舐めれば大体の泉質が分かります。ガス・薪併用で沸かしている店もあるので、比較してみましたが薪沸かしだろうがガス沸かしだろうが、正直なところ体感はほぼ変わらなかったです。
五右衛門風呂やドラム缶風呂のように風呂釜を直接薪で熱した場合は輻射熱が発生し、下から熱するため対流が生まれ、温度ムラが出にくいなど「湯冷めしにくい」と感じる可能性はあるかもしれません。
うちの銭湯の場合は、一度ボイラーに入ったお湯は70度付近まで温度を上げた後、別のタンクで水と混ぜているため、輻射熱・遠赤外線による水質の変化はないのではと思っています。
と頭ではわかっていますが、『桑の湯』を継承して気づかされたことがあります。
『桑の湯』の燃料は極太の薪。昔ながらのやり方でお湯を沸かすのですが、その過程で薪を運び、チェーンソーで切り、釜に火を起こします。火加減を見ながら薪をくべ、熱を顔に感じながら、火を絶やさぬようにらめっこするのです。
100%薪沸かしの運営は初めてでしたが、本当に手間がかかります。風呂を沸かすまでに流す汗の量が尋常じゃない。隣の市に行けば適温でとろとろの温泉が沸いているけど、ここではわざわざ水を4時間をかけて温めている。
そうしてようやく生まれた熱は、職人が作る工芸品と同じように、手仕事特有の温かさや意思を宿しているのでは? と僕は思うのです。
成分を分析しても、数字で見たらきっとなんら違わないお湯です。だけど、思いが乗っている分、多分薪で沸かすとあったかいです。
やっぱり湯冷めしないかも。
edit : Sayuri Otobe
風呂屋 相良政之
