&EYES あの人が見つけたモノ、コト、ヒト。

ベターライフを考える。「花を買う」。 連載コラム : 鈴木ジェロニモ #1January 10, 2025

ベターライフを考える。「花を買う」。 連載コラム : 鈴木ジェロニモ #1
ベターライフを考える。「花を買う」。 連載コラム : 鈴木ジェロニモ #1

 鈴木ジェロニモという名前でお笑い芸人をしている。「ベターライフ」とは何なのか、正直分かっていない。分からないなりに、ここでの連載を通してベターライフの輪郭を描写するから、見張っていてほしい。花を買う。食器を買う。早く起きる。サウナに行く。全4回。早速、花を買う。

 花屋さんに行くと外から見える形で花束がいくつか並んでいる。3,000円が花束の平均価格なようで、結構高いんだな、と思う。平均3,000円のコーナーを、最初から3,000円であることを知っていたかのような顔を作って、見る。左奥に「ミニブーケ」というコーナーを見つける。そちらの平均は2,000円。こっちにしよう、と思う。さっき3,000円を高いと感じたのは、渡す相手が自分だったからだと気づく。自分が自分に渡すとしたら、3,000円は高い。2,000円。いいと思う。ミニブーケたちは3種類並んでいて、何となく赤、青、白と分かれている。赤かなあ、と思う。初めて花を買うに当たって、花を買った、と一番感じられる色は赤だと思ったからだ。赤いミニブーケを指差しながら店員さんに、すいませんこれください、と言う。「ありがとうございます」。店員さんが赤いミニブーケを優しく抜き取って、ラッピングしてくださる。「ご自宅用ですか?」。ああ、はい。ご自宅用。いい言葉だ。他人へのプレゼント目的でない花束を買うことに、寂しさが伴わない。「ご自宅用」の花束を、紙袋に入れて持ち帰る。自分が花束を持っているのだと思うと、手つきや、街の空気への関わり方が、雲のように優しくなった。

edit : Sayuri Otobe


お笑い芸人、歌人、YouTuber、俳優 鈴木ジェロニモ

お笑い芸人。歌人。YouTuber。俳優。1994年生まれ、栃木県さくら市出身。プロダクション人力舎所属。R-1グランプリ2023、ABCお笑いグランプリ2024準決勝。第4回笹井宏之賞、第5回笹井宏之賞、第65回短歌研究新人賞最終選考。第1回粘菌歌会賞を受賞。文芸誌『文學界』、『短歌研究』、『ユリイカ』、『新潮』にエッセイ掲載。J-WAVE『GURU GURU!』、『鈴木ジェロニモ 半径3mの違和感短歌』のナビゲーター。劇団ロロ公演『劇と短歌『飽きてから』』に出演。YouTubeでの“説明する”動画が話題となり、NHK山形『やまコレ -山形を説明する-』、NHK総合『ドキュメント20min.』、『ニッポンを説明する』に出演。2024年11月、書籍『水道水の味を説明する』(ナナロク社)を刊行。

linktr.ee/suzukigeno

Pick Up 注目の記事

Latest Issue 最新号

Latest Issuepremium No. 134明日を生きるための映画。2024.12.20 — 960円