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凛と佇む、曲線美に魅せられた花器。写真と文:村上章裕 (『水尾之路』店主) #4August 27, 2025
無色透明な水に、もし“かたち”あるならば、それはきっとやわらかく、なめらかで、そして凛として、少しだけ気位が高いのでしょう。そんなことを思わせる花器でございます。
それまで全く素養のなかった私が、拙いながら花を生けるようになったのは、この家に住まうようになってからでした。
誰かが思いを込めて暮らした場所を片付け、そして新たに住む場へと整えていく作業は、かつての主の思いを上からなぞっていくような感覚がありました。
ようやく場も整った頃、招いた叔母は、ひとしきりこの家本来の設えを褒め終えた後にこう言いました。
「この家は、花を生けんといけん家じゃねぇ」
その時はあまりぴんとこなかった私ですが、開店祝いとして設えてくれた叔母の生け花を見た時にやっと認識するのです。
そういえば、かつてのこの家の奥さまは、この場所でお花とお茶と三味線を教えていらしたそうです。
ご近所のお婆さま方によると、奥さまは女優のような容姿と背筋が伸びた凛とした方だったようです。
このようなことを瞬時に思い返したのは、知人が営む京都の『tonoto』というギャラリーにて、ガラス作家・瀬沼健太郎さんの花器と出合った時のことでした。
迷わずに自宅へと連れ帰って、はや4年。
そして本日も、来週の客人を招くために私は花を生けるのです。

『水尾之路』店主 村上 章裕

むらかみ・あきひろ/広島県尾道市出身。大学卒業後アパレルブランドの店舗運営などを経て、2017年に地元尾道市でカフェ・1組限定宿『水尾之路』を開業。