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80年を超えて受け継がれた和箪笥。写真と文:村上章裕 (『水尾之路』店主) #1August 06, 2025

人も生まれて半世紀を過ぎると、趣味・嗜好の遍歴を振り返ることが増えてきました。

ファッション・好きな人・味覚など……。時間を経て好きなものが行方不明になったり、あらゆる都合により、かつて夢中だったことがきれいさっぱりと無かったことになっていたり。

しかし、インテリアだけは、私にとって今も変わらず特別な存在であり、その執着心の強さも薄れることなく、アーカイブとしてこの場所に残っています。

ここは、私たちの自宅であり、同時にカフェと宿として営んでいる尾道にある『水尾之路(みおのみち)』です。

今回の連載では、「空き家バンク」を通して引き継いだこの家が、これまで紡いできた 「もの」への偏愛アーカイブをいくつかお話してまいります。どうぞよしなに。

80年を超えて受け継がれた和箪笥。写真と文:村上章裕 (『水尾之路』店主) #1

さかのぼること今から88年前。分家にあたる新婚夫婦の新居として、また本家の大事なお客さまをもてなす場所として、この家は建てられたようです。尾道では、港町として交易で財を成した商人たちが、その成功を表現する場や迎賓館として、別邸を建てる「茶園文化」と呼ばれるものがあったそうです。

その際、奥さまと嫁入り道具のひとつとしてこの家にやってきたのが、こちらの和箪笥(わだんす)です。

80年を超えて受け継がれた和箪笥。写真と文:村上章裕 (『水尾之路』店主) #1
80年を超えて受け継がれた和箪笥。写真と文:村上章裕 (『水尾之路』店主) #1

つい先だって、この家のお孫さんとお会いする機会があり、話によると、家を離れてからもお祖母さまは晩年、この箪笥に思いを馳せておられたとのこと。

箪笥というのは、着物や日用品以外にも折々の思いをしまうことができる家具なのでしょう。

私たちは現在、この箪笥の引戸や引き出しの一部を外し、飾り棚としても使っています。

引き出しには、店舗用備品のストックや帳簿類を。着物を仕舞う引き出しには、普段使わない私たちの食器を収めています。

空き家としての30数年を経て、役割は少し変わりましたが、私たちの営みの折々の思い出も少しずつしまっていきたく思います。

edit : Sayuri Otobe


『水尾之路』店主 村上 章裕

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むらかみ・あきひろ/広島県尾道市出身。大学卒業後アパレルブランドの店舗運営などを経て、2017年に地元尾道市でカフェ・1組限定宿『水尾之路』を開業。

instagram.com/mionomichi

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