&EYES あの人が見つけたモノ、コト、ヒト。
青春の上書きは、東京・谷中の『COUZT CAFE + SHOP』で。写真と文:ササキアイ (文筆家) #4June 24, 2025
制服のない、校則らしい校則もない、自由な高校に通っていた。
思い思いの服装で登校する学生たちの中でも、“彼女”はかなり目立っていた。高校を1年間休学してアメリカに留学し帰国後に復学した彼女は、ひとつ下の学年である私のクラスメイトになった。
自分でイラストをペイントした古着のダメージデニム、真っ赤な口紅で耳にはズラーっとピアスが並んでいる彼女は、誰にも似ていなくてとてもカッコよかった。
高3の夏、バスケ部だった私は引退と同時に彼女に頼んで、放課後の教室でピアスの穴を開けてもらった。
夏を連れて彼女が帰ってくる。アクセサリー作家になった彼女は、現在インドとネパールを拠点に生活しながら、自身で買い付けた天然石でアクセサリーを制作している。彼女の作品は天然石ひとつひとつの形や特徴を活かしながらデザインするので、非常に手間がかかる上に当然同じものは二つとない。
毎年夏のはじめに帰国し、日本中のあちこちで個展をしながら作品を販売している。行く先々で私のように作品を楽しみにしているファンが待っているのだ。そして秋が深まる頃、次の作品制作のために日本を発つ。
その彼女が毎回、最も期間の長い個展をするのが、東京・根津駅からほど近い『COUZT CAFE + SHOP』だった。ここでの個展はかれこれ10年近く続いている。
店内はゆったりと広く、少し長居したいおひとり様にも、お喋りをしたいグループ客にも居心地がよい。オーナーの椿さんをはじめ、店内を切り盛りする女性スタッフの気配りがとても素敵なのも人気の理由のひとつだと思う。そしてハンドドリップで淹れるこだわりのコーヒーはもちろん、食事もデザートも何をオーダーしても間違いがない。私は個展をきっかけに知ったこのカフェが大好きになり、散策の途中に一人で、時には友だちや娘を伴って、頻繁に足を運ぶようになった。
『COUZT CAFE』のメニューにはいつもちょっとした驚きがある。凡人には絶対に思いつかない!と感嘆してしまうような食材の組み合わせやスパイス使いを、私はこの店のメニューでたくさん知った。
白桃とラベンダーのレアチーズケーキや、グレープフルーツと抹茶のタルトにはほんのり山椒が香る。無花果のパフェにはほうじ茶のアイスとジンジャーミルクティーのゼリー。熱々の梨と柿と無花果のケーキ。そこに添えられるシナモンや八角などのスパイスがたっぷり効いた自家製のアイスクリーム……。
こうして書き出していると、味の記憶が鮮明に蘇ってうっとりしてしまう。そして素材同士の組み合わせが起こすミラクルは、どこか彼女の作品とも似ている気がする。
それらの珠玉のデザートやコーヒーをお供に、私たちは『COUZT CAFE』のカウンターで実に様々な話をしてきた。
昔のこと、この先のこと、親や家族のこと、生き方のこと。年齢を重ねるたびにその内容も少しずつ移ろいでいくけれど、とにかく無事に来年もまたここで会おうと誓いあって、そっとハグをして別れる。
約束できる「ここ」があることを幸せだと思う。
あの時開けてもらったピアスホールに、彼女が作ったピアスを着けている。
「色々あるけど大人になるのも悪くないよ」と、17歳の自分に教えたい。

文筆家 ササキアイ
