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誰かの本棚を眺めているような、谷中の小さな書店『雑貨と本gururi』。写真と文:ササキアイ (文筆家) #2June 10, 2025
10代の頃、姉のいる同級生が羨ましかった。
彼女たちは私の知らないいろいろなことをよく知っているうえに、どことなく周りの女の子たちよりも垢抜けて見えたからだ。
谷中の団子坂の下から根津方面に向かって、不忍通りと平行するようにくねくねと続く細い道がある。「へび道」と呼ばれるこの裏通りはいわゆる暗梁(あんきょ)だ。かつては藍染川という川だったと知ってからは、いつも頭の片隅に川の名残りを感じながら蛇行する道を散策する。
数年前、その「へび道」沿いに『雑貨と本gururi』という名前の、女性店主が営む小さな書店がオープンした。

店内には「架空の一人の女性をイメージしてセレクトした」という本と、センスの良い雑貨が丁寧に陳列されている。
通りに面して大きく取られた窓には季節の花が生けられ、入口のガラス戸にはお店のアイコンでもある、本を読む女性と猫のイラストが描かれている。
その扉の先は、私にとってまさに「姉のいるちょっと大人びた同級生の部屋」のようにときめく空間だった。
数人で満員になる小さな店内ゆえ商品数は決して多くないが、だからこそ吟味して厳選されたのであろう品揃えに、店主のポリシーや美意識を感じる。
韓国文学やジェンダー、フェミニズムに関する書籍が充実しており、猫を題材にしたエッセイや絵本、食にまつわる本の取扱いも多い。
その、どんな本でも置いてあるわけじゃないところもまた「誰かの本棚」を眺めているような感覚がする。私はそれまで知らなかった作家や読んだことのないジャンルの本とこの店で出合い、手にする機会がとても多い。

本以外にも、靴下やリネン類、オリジナルの石鹸、コーヒー豆など、繰り返し購入したい品物があることも、足繁く通いたくなる動機の一つになっている。
購入した本をすぐに読みたくて、居心地のよいカフェを開拓するのも谷中散策の楽しみに加わった。

窓から中を覗き、混み合っていなければそっとドアを開ける。
入口に視線を向けた店主の渡辺愛知さんが一瞬、「あ」という表情で私に気づいて、
「あ、アイさん、こんにちは」
とふんわり微笑んでくれるたび、私は憧れのクラスメイトに会いにきた中高生のように嬉しくて、毎回ちょっとはにかんでしまう。
行く頻度は人それぞれであっても、私と同じように彼女の心配りが行き届いた場所でゆっくり本を選び、ちょっとした言葉を交わす時間を愛しているファンがたくさんいる。
お店は今年オープンして4年目を迎えた。
これからも私のお気に入りの場所であり、「へび道」から私たちを優しく導く、灯台のような存在であり続けてほしいと思う。
文筆家 ササキアイ
