音楽家・青葉市子×写真家・小林光大が紡ぐ、旅と日々の記憶。Choe「月と鯨」 | Column | & Premium (アンド プレミアム)

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December 12, 2020 音楽家・青葉市子×写真家・小林光大が紡ぐ、旅と日々の記憶。Choe「月と鯨」

クラシックギターを片手に国内外を旅する音楽家の青葉市子さん。各地でインスピレーションを汲み上げながら、日々、言葉と音楽を紡いでいます。その旅に同行し風景を切り取っているのが、写真家の小林光大さん。日々の生活に戻っても、互いの存在と作品は呼応し合い、ときには小林さんの写真を通して青葉さんが創作することも。

この連載では、旅と日常とまたぎながら2人が生み出したものを「Choe」と名付け、青葉さんのエッセイと音楽、小林さんの写真を交えながらお届けします。

今回は、青葉さんのニューアルバム『アダンの風』発売に際して行われたコンサートで、東京・品川の原美術館を訪れました。

 

「月と鯨」

 

2020年11月30日、半影月食、満月。

私たちは、品川に佇む原美術館でコンサートの収録をしていた。
Hara X Ichiko Aoba quiet solo concert “ Windswept Adan “ と題した、『アダンの風』発売日に配信されるコンサート。

 
 

快晴の冬空、まるで空一面お掃除したかのようなぴかぴかの風が通り、紅葉した葉が原美術館の庭園の苔の上に光を孕んで落ちていく。苔に着地する瞬間、光と影が一つに合わさるのを見ていた。白く七色を眩かせている外壁のタイルは、白蝶貝のような輝きを持って美術館を包んでいる。

 
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ステージとなるのはサンルームと呼ばれる、半円状に造られた部屋の一角。かつてはここから品川の海が見えたという。ミュートのかかったピアノが設置され、展示期間中はドビュッシーの「月の光」が自動演奏されていた。収録の日は休館日で、何百回も「月の光」を演奏してきたピアノは、静かに白と黒の鍵盤や弦の束を休めていた。

 
 

月は自分では光らない。

1798年5月1日、満月。

品川の海に、16m余りのシロナガスクジラが迷い込み、漁師たちに捕獲された。原美術館から歩いて10分のところに利田神社があり、境内の鯨塚にはまさにその鯨が眠っている。弁財天が祀られており、このコンサートの前にも、私たちはお参りをしに行った。

 
 

満月の日はどきどきする。満ちたり引いたりが強くなる。夜になっても身体が眠らない感じがして、たまに目眩がする。月酔いというものらしい。222年前のあの日も、満月だった。鯨の目に映っていた月の光は、ほとんど変わりがなく 今も私たちの瞳にある。海の中にはエコロケーションの歌が満ちていて、プランクトンだった 私たちはそこから来た。歌が身体を通るとき、時間も場所も超えて、鯨たちや星々のうたと混ざり合っていられたらいいなと思う。ただひたすらその管でいるまま、この身体をやめた後も、ずっと。

 
 

“ むかし むかし
漁火揺れる潮風に
窓辺の歌 “

 
 

衣装:横山キミ(NEWSEE) アクセサリー:YUKI FUJISAWA

 

文/青葉市子
あおば・いちこ/音楽家。1990年生まれ。17歳でクラシックギターに触れ、2010年にアルバム『剃刀乙女』でデビュー。声優やCM音楽、ナレーションなどジャンルを跨いで活動。2020年12月2日に最新アルバム『アダンの風』をリリースした。その他最新情報はこちら

写真/小林光大
こばやし・こうだい/写真家。新潟県生まれ。青葉市子さんの作品では、アルバム『アダンの風』ジャケット写真の撮影や、「Porcelain」のPV監督などを務めた。