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November 29, 2020 音楽家・青葉市子×写真家・小林光大が紡ぐ、旅と日々の記憶。Choe「貝を贈り合うように」

クラシックギターを片手に国内外を旅する音楽家の青葉市子さん。各地でインスピレーションを汲み上げながら、日々、言葉と音楽を紡いでいます。その旅に同行し風景を切り取っているのが、写真家の小林光大さん。日々の生活に戻っても、互いの存在と作品は呼応し合い、ときには小林さんの写真を通して青葉さんが創作することも。

この連載では、旅と日常とまたぎながら2人が生み出したものを「Choe」と名付け、青葉さんのエッセイと音楽、小林さんの写真を交えながらお届けします。

今回も、青葉さんのニューアルバム『アダンの風』ビジュアル制作の旅で生まれたもの。写真と朗読を通して、奄美の風景を思い浮かべながらお楽しみください。

 

貝を贈り合うように

 

 

突き抜ける青の空は、空というよりは、宇宙の入り口だった。星にはりついた2本の足をつっぱり、首をうんと上へ、上へ、伸ばしていた。浮かないのが不思議だった。視界にはトンボたちが、光線を燻らせて翅の虹色を撒いている。

「あそこにでっかいエビがいる!」

大潮で引いた潮溜まりを覗きこむ、みんなの姿が見える。見上げ続けた宇宙の入り口が、みんなの姿に転写されて、空か陸か、水面か人か、わからなくて眩む。きれい。

 
 

アダンの実は完熟して、今にも浜へと落ちそうに、それでもまだしっかりと生っている。重い実は、強い島風が吹いても揺れることなく、棘の葉の中でいくつもの陸の太陽を覗かせている。熟れた実の一部をもいで、ムラサキオカヤドカリに渡すと、がじがじと繊維質な実から丁寧に果実部分を取って食べていた。

風が吹く。言葉とはまた少し違った響きの、でも、確かに何かを伝えている風。耳を澄ませてみる。聴き取れているのかわからないけれど、混ざり合っていることは、わかる。ふと歌った声は、風の音がした。

 
 

「ケイジ。山本くん。合流します。もう仲良くなった。」と、ピックアップ先の奄美空港から戻ってきた沖さんが言った。今回のMVで、島の植物やクリーチャーたちがそのまま人の姿になったような、美しい動きを体現してくださった山本桂次さんが合流。

一緒に岬を歩く。
一歩一歩、風を受けて。
多くを語らなくとも、あたりに吹き回る風で、伝わり合っている気がした。私たちの背中に縫い付けられていた、衣装の横山キミさんが拵えてくれた背守りが、夕日を受けてつやりと輝いていた。

日が暮れてトラックの荷台に乗りこみ、狭い坂道を登ってゆく。照明のじゅくさんと、制作スタッフのあおいさんがひゅうひゅう言って、ジェットコースターしている。たまにソテツの硬い葉が肩や顔に当たる。iPhoneで動画を撮影しながらぽそりと「ソテツ痛え」とケイジさん。私たち急に出逢ったのに、もうすっかりと混ざり合っていたのは、島に、ことばになる前の、たくさんの、風がみちあふれていたからだと思う。

 
 

「ね、あの3人帰ってこないけどどこいったの?」
「沖の方、水深30mとか?」
「梅先生に写真送ろう」
「あ、帰ってきた」
「あれ、さっきより焼けましたね」

「いけしゅんさんってどうしていつもちょっとした移動でも全力疾走なの?」
「元バスケ部らしい」

「おはようございます、大丈夫ですか?」
「れんと(黒糖焼酎)にやられました・・・」

「ここ深いから騎馬戦方式で渡りましょう!」
「ちょっとそこで止まって、キープで、撮りまーす」

「ここは毎日、砂が動くから、地形が変わるの。最後に残った唯一の手付かずの海岸よ」

「このブダイたち、今夜お刺身や煮付けにして食べれるって!」
「バナナの葉、でっかいね」

「今ね、夕日がちょうど、瞳の中にあって綺麗なんすよ」

「雨来ました、青葉さん、踊りましょう、嵐の舞」

 
 

美術のちひろさんが作ってくださった、島で集めた宝の山。珊瑚や流木、動物や魚の骨、浮き玉のブイやフロート、漂流物。クリーチャーたちが浜に積み上げた、弔いの姿。「アダンの風」のプロットに細かくスケッチしていた、まさにそのスケッチ通りの宝の山が再現されていた。

 
 

今年、どうしてこんなにも島に惹かれていったのか、明確な理由はわからないでいる。ただ、心のまんなかにある、子どものときから変わらない煌めきの結晶のようなものに触れに行くとき、確かに海をわたる感触があり、ロマンがいっぱいの孤島へと辿り着く。これから「アダンの風」と出逢った人(クリーチャー)たちが、それぞれの孤島へと航海する、そのサウンドトラックに、少しでもなれたのなら、こんなに幸せな音楽人生はありません。

 

 
 

 

music & text:Ichiko Aoba photo:Kodai Kobayashi