MOVIE 私の好きな、あの映画。

エッセイスト 柳沢小実さんが語る今月の映画。『祝宴!シェフ』【極私的・偏愛映画論 vol.111】February 25, 2025

This Month Theme台湾の食文化に触れる。

調理中の風景が躍動感に満ちた、ハレの料理と素朴な家庭料理。

 台湾を旅していると、友だちやそのご家族、お店で働く人や街ですれ違う人など、ありとあらゆる人が「大丈夫?」「困ってない?」と積極的に世話を焼いてくれます。受け取ったバトンを他の人へとつなげたくなるような、じんわりと余韻の残るやさしさ。この映画『祝宴!シェフ』からも同じものを感じて、「あぁ、私の好きな台湾がここにある」と胸が熱くなりました。

 2013年に公開するやいなや台湾で大ヒットした、台湾の映画史においても重要な作品です。魚が苦手な宴席料理人の娘シャオワンが「古早(=昔ながらの、伝統的な)料理の宴席で結婚式をしたい」と依頼してきた老カップルに安請け合いして、そこから宴席料理大会への出場へつながるというハートウォーミングなドタバタコメディ。監督は映画『ラブゴーゴー』や金馬奨の監督賞と脚本賞に輝いた『一秒先の彼女』、くすっと笑えるCMの数々でも著名な陳玉勲氏で、主演から脇役まで著名な俳優がずらり。キッチュな色彩の街並みやインテリアもとびきりチャーミングです。

 舞台は伝統的な文化と風習が残る、台湾南部。映画のタイトルである祝宴シェフはお祝い事の料理を一手に引き受ける宴席料理人のことで、かつては結婚式や神様の誕生日に屋外にテーブルを並べて祝いの席を設けていました。屋外というのはつまりは道路を封鎖していることになるので、台湾人のおおらかさがうかがえますよね。しかし現在は、交通事情などから台北や高雄市内などの都市部では、このような光景を見るのはむずかしいよう。台湾南部出身の友人によると子どもの頃はしばしばあったが、同年代の友人の多くはホテルで挙式するようになり、大人になってこのような宴席に参加したのは一度だけとのことでした。

 本来、このような宴席には贅を尽くしたハレの料理が並ぶものですが、宴席大会では出場者の判断で素朴な家庭料理のメニューも盛り込まれて、料理の本質を問うものとなりました。食材のみずみずしさや油で揚げているときの小さな泡、鍋に入れたときのジュッという音など、躍動感に満ちていて観ているとお腹が空いてくる。「助け合って、食べて、生きる」というシンプルで力強いメッセージが伝わります。

 ゆるいつながりの人たちが我先にと手助けする姿も台湾あるあるで、優しさや思いやりを損得度外視でどんと手渡せる彼らがまぶしい。そういうところが、台湾に憧れつづけている理由の一つなのです。

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口の中で踊る焼きビーフン。トマトと卵の炒めものは、甘めの味つけでホッとする。そんな素朴なメニューを食べたくなるのが台湾旅。映画を観たらいてもたってもいられなくなり、気づいたらエアーチケットを手配していました。来月行ってきます!
Title
『祝宴!シェフ』
Director
チェン・ユーシュン
Screenwriter
チェン・ユーシュン
Year
2014年
Running Time
145分

illustration : Yu Nagaba movie select & text:Konomi Yanagisawa edit:Seika Yajima


エッセイスト、整理収納アドバイザー 柳沢小実

衣・食・住・旅・台湾にまつわる著書は30冊以上。読売新聞連載をまとめた『おうち時間の作り方』『すっきり暮らすためのもの選びのコツ』『私らしい暮らしとお金の整え方』(ともに主婦の友社)、最新刊に『「自分ログ」で毎日が変わる 手帳のある暮らしがある』(大和書房)がある。

instagram.com/tokyo_taipei

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