INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
築92年の一戸建てを宝探しのようにリノベーション。美作天地さん、翔子さんの、古くても心地よい住まい。March 26, 2023
春、新年度を迎えるにあたって、心地よい住まいについてもう一度考えてみるのはどうでしょう。狭い部屋や古い家を自分たちらしく整えて、豊かに、楽しくベターライフを送る人たちを取材した、2023年1月20日発売の『&Premium』の特集「楽しく部屋を、整える」から、ここでは、中古住宅プランナーの美作天地さん、編集者の翔子さん夫妻の、古い家でも快適に住まう秘訣を紹介します。
東京都内、築92年の一戸建てを住み継ぐ。
東京都内の一軒家。その家に入ったとき、どこか緑豊かな土地の古民家にワープしたような感覚に陥った。立派な柱や梁、屋根の野地板などがむき出しになった部屋。天井高は最大で5m以上あり、90年以上の年月を刻んできた木々の風合いが、どこか厳かな雰囲気を醸している。
美作天地さん、翔子さん夫妻が暮らすこの家は翔子さんの祖父母が暮らした場所。祖父亡きあと、長らく空き家になっていたが、結婚を機に譲り受け、リノベーションした。
「古い家の構造を見たくて、試しに天井板を外して裏を見てみたんです。そしたら立派な野地板や梁が見えて。味があってかっこいいし、何より天井がものすごく高い。これはもうブチ抜くしかないぞ!って、一気にテンションが上がってしまって(笑)」と天地さん。じつはふたりは中古リノベーションマンションの不動産仲介をする会社に勤める、リノベ物件の目利き。自分の家が思わぬ〝掘り出し物〞だと知り、その魅力を最大限に生かそうと決意した。
最大の魅力である天井高が一番かっこよく見えるよう、広いLDKの真ん中、最も天井が高い部分にキッチンを配置した。古い柱や梁は適度に間引きつつ残し、その雰囲気に合わせて古材や古道具の専門店で障子などの建具を自ら買い付け。壁はクロスを使わず、すべて漆喰風の塗装で仕上げるなど、細部に至るまで設計士と相談し、一緒に作り上げた。
「古民家のよさを残しながら、生活面では快適性も大切。とくに水回りは使い勝手がよくないと大変ですから、最新の設備を導入したくて」とは翔子さん。木とモルタルをミックスした造作のキッチンにはIHコン
ロや食洗機などを取り入れた。
「この家にはどんな魅力や個性、価値があるんだろうか。それを考え、話し合いながらのリノベーションは、宝探しをするようなワクワクする時間でした」とふたり。転居後に息子が誕生したことで、また少しずつ家に手を入れようと考えている。
「古い家はメンテナンスが欠かせませんが、手を入れながら、家族の暮らしに合わせてその都度変化を加えていく。そんな家との付き合い方もいいものです。何より90年以上この家に刻まれてきた暮らしを引き継いでいけることが嬉しい。次の世代にバトンを渡せたらいいですね」。そう言って、愛おしそうに梁を見上げるふたり。東京に、こんな豊かな住まいの物語があったなんて。我が家の天井裏にも素敵な宝物が眠っているかもしれない。そんな小さなワクワクをくれる出会いだった。
美作天地 中古住宅プランナー
美作翔子 編集者
中古リノベーション物件を専門に不動産仲介をする〈カウカモ〉勤務。天地さんは商品企画、翔子さんは物件紹介の記事づくりを担当している。
photo : Kazumasa Harada illustration : Shinji Abe (karera) edit & text : Yuriko Kobayashi