FASHION 自分の好きを身に付ける。
〈A.PRESSE〉ディレクター、重松一真さんの考える、ものづくりとセンス。April 08, 2023
シンプル、機能的、美しい佇まい。心地よいと感じるデザインの根底には、固定観念にとらわれない価値観や細部へのこだわりがある。2023年3月20日発売の『&Premium』の特集「センスのいい人が、していること」内で、4組の作り手に製作背景を聞いた企画「ものづくりとセンス」から、ここでは、〈A.PRESSE〉ディレクター、重松一真さんのものづくり、センスの考え方を紹介します。
アーカイブをベースに、男女の垣根を越えた共感できる服づくり。
例えば参考にしたいヴィンテージがあれば、1年以上かけて糸や織りを解析する。生地や加工から経年変化までを忠実に再現し、単なるリプロダクションにとどまらず、現代にも合う良さを引き出すためのディテールを追求する〈アプレッセ〉。玄人好みの視点とこだわりの深さが服好きの間で人気を集めるブランドは、今春で5シーズン目。さまざまなブランドのプロデュースやディレクションに携わる重松一真さんが中心となり、チームで編集をするように服づくりをしている。
「現在の仕事の多くは誰かのため、何かのためにやることが多い。純粋に自分のフィルターだけを通したときには、どんなものができるのかなという思いから生まれました」
ものづくりのスタイルもいわゆる他のファッションブランドとは趣を異にする。完全なるプロダクトアウトでトレンドやマーケティングより作りたいものを尊重する。重松さんが蒐集している古着が、すべての服づくりのベースになっているという。
「もしいい古着が手に入るならそれを買ったほうが絶対いい。でも高額だったり、生地や色はいいけどフォルム的に難しかったりすることもあるので、僕が持っている大量のアーカイブから考えることで、手にしてほしいという思いがあります。入手できるものに関しては、作り出す必要がないので作らないし、再現するときは極力デザインしません」
メンズブランドだが女性のファンも増えている。メンズを貫くのは、ものづくりに迷いが生まれないようにするため。
「僕自身はユニセックスという言葉があまりしっくりこなくて、女性の作りも考え始めるとブレてしまう。けれども僕らのものづくりに共感してくれるなら女性にも着てほしい。それで女性が着用したルックも作りました。自分の考えとしっくりくる服、身に着けることで自信に繋がるような服であるなら、男女関係なく着てくれたらいいなと思います」
〈アプレッセ〉はごくパーソナルなものだというが、自分が表舞台に立つことは望んでいないと重松さん。ものづくりに筋が通っていれば本質は付いてくるもの。自身を「デザイナー」でなく「編集者」と名乗り匿名性を保つのも、服づくりは多くの人たちの手を介した共同作業で生まれるものと実感しているから。そんな重松さんが考えるセンスとは。
「何かを貫くことによってセンスの感覚みたいなものがつくられると思うのですが、その根底にあるのは〝責任感〞なのかなと。関わっている人が周りにいて、その人たちにマイナスになるようなことを絶対したくないと考える。責任感が強ければ強いほど抱えているものは重たいし、妥協もできない。常に突き詰める感覚で生きていることで、ものづくりは研ぎ澄まされていくのだと思います」
PROFILE
重松一真
1988年生まれ。アパレルの輸入代理店を経て、2017年アンシングスを設立。国内外ブランドのディレクション、プロデュース、セールスを行う。2021年、自身がディレクターを務める〈アプレッセ〉をスタート。
photo : Masanori Kaneshita edit & text : Chizuru Atsuta