MOVIE 私の好きな、あの映画。
『サンドラの週末』選・文/小柳帝(ライター、編集者) / March 19, 2016
This Month Theme誠実さに心を打たれる。
小柳帝(ライター、編集者)
挫けそうになりながらも、信念を貫き通す誠実な姿勢。
『サンドラの週末』などというタイトルを聞くと、サンドラという女性が何やらステキな週末を過ごすような映画のように思われる方も多いと思いますが、実際に彼女を待っていたのは世にも過酷な週末でした。
ベルギーのとある地方の工場で働くサンドラは、夫と子ども二人との決して楽ではない暮らしをその仕事によって懸命に支えていたのですが、体調不良による半年の休職ののち、突然言い渡されたのが解雇の通知。そして、それを覆すには、同僚16人のうち過半数がボーナスを諦めること。同僚たちは、サンドラを残すかボーナスを取るかという厳しい選択を迫られますが、低所得者が中心の工場労働者にとって、ボーナスは喉から手が出るほど欲しい臨時収入。結果、ほとんどの同僚がボーナスを選択します。しかし、サンドラにとっても失職は大問題。何とか週明けの日曜日に再投票をしてもらうよう社長を説得したサンドラは、週末を使って同僚の家を一軒一軒訪れ、自分を残す方に投票して欲しいと訴えることになるのですが、親しかった同僚からも冷淡な態度を取られるなど、病み上がりのサンドラは幾度も心が折れそうになる瞬間を体験します。それが、この映画でサンドラが過ごすことになる週末なのです。
ところが、サンドラは何度も挫けそうになりながらも、誠意をもって同僚たちを説得して回っているうちに、彼らの中にも、少しずつではありますが、彼女の誠実な態度に心を打たれボーナスを諦めてもいいという人たちが出て来ます。それが、実に感動的で心を打つのです。サンドラを演じるのは、アカデミー賞女優でもあるマリオン・コティヤール。監督は、カンヌ映画祭などで何度も受賞経験のある、それこそ誠実な映画を撮り続けて来た社会派のダルンデンヌ兄弟。決して有名な俳優を使わない彼らが、あえてマリオンを使ったのは、彼女の卓抜な演技力もさることながら、彼女の仕事に対する誠実な姿勢を評価して来たことによるものだそう。スッピンでこの役を演じたマリオンは、初めこそ、これがあのマリオンかという疲れた表情を見せていますが、決して単純なハッピーエンドとは言えないこの映画のラストで彼女の見せる笑顔の何と晴れやかで美しいこと。その笑顔が見られるだけでも、この映画は必見と言っていいでしょう。