FASHION 自分の好きを身に着ける。

〈オーラリー〉デザイナー・岩井良太さんの服づくり。細部まで行き届いた、作り手のセンス。May 18, 2025

シンプルで、スタンダードなプロダクトは、細部に差が出る。確かな服作りを続けるブランドに聞いた製作のこだわりや思い。そこには経験に裏付けされた、作り手のセンスがあった。

2022年5月号「センスがいいって、どういうことですか」より、〈オーラリー〉デザイナー・岩井良太さんのインタビューをWEBで特別に公開します。

BRAND AURALEE  Designer 岩井良太 Ryota Iwai

素材への追求から生まれる、直感的に体が喜ぶ服作り。

〈オーラリー〉デザイナー・岩井良太さんの服づくり。細部まで行き届いた、作り手のセンス。
エジプトの最高級綿フィンクスコットンを細番⼿に紡績し、⾼密度に織り上げたツイルシャツはブランドの定番アイテムの一つ。毎シーズン少しずつ色や形を変えながらアップデートしている。柔らかい⾵合いを出すために施す加工にもこだわる。シャツ各¥30,800(ともにオーラリー ☎03−6427−7141)

 はっきりとは表現できないけれど、そこはかとないセンスを感じる。適度なゆるさや抜け感があるけれど、野暮ったくない。デザイナー岩井良太さんが手がける〈オーラリー〉は、そんな洗練された空気感を纏ったブランドだ。服作りにおいては、毎シーズンのテーマを明確に設けることはなく、その時々、頭の中にふと浮かんだ雰囲気を大事にしている。もちろん、そのふんわりとしたイメージがそのまま服になるのではなく、背景には緻密なものづくりのプロセスがある。ブランドは「素材の追求」をコンセプトにスタートしているだけあって、生地はすべてオリジナル。素材作りに始まり、形に落とし込むアプローチもユニークだ。一般的には作るものを決めてから生地を探すが、岩井さんの場合は糸になる前の原綿や原毛から考える。

「センスのいい人は、着こなしだけでなく、立ち居振る舞いや人との接し方のバランスもいいなと感じます」と岩井さん。〈オーラリー〉デザイナー・岩井良太さんの服づくり。細部まで行き届いた、作り手のセンス。
「センスのいい人は、着こなしだけでなく、立ち居振る舞いや人との接し方のバランスもいいなと感じます」と岩井さん。

 はっきりとは表現できないけれど、そこはかとないセンスを感じる。適度なゆるさや抜け感があるけれど、野暮ったくない。デザイナー岩井良太さんが手がける〈オーラリー〉は、そんな洗練された空気感を纏ったブランドだ。服作りにおいては、毎シーズンのテーマを明確に設けることはなく、その時々、頭の中にふと浮かんだ雰囲気を大事にしている。もちろん、そのふんわりとしたイメージがそのまま服になるのではなく、背景には緻密なものづくりのプロセスがある。ブランドは「素材の追求」をコンセプトにスタートしているだけあって、生地はすべてオリジナル。素材作りに始まり、形に落とし込むアプローチもユニークだ。一般的には作るものを決めてから生地を探すが、岩井さんの場合は糸になる前の原綿や原毛から考える。

 「紡績の仕方や編み地に惹かれて、そのための糸や素材作りを考え、最後にデザインするという順番。さまざまな業種の職人に相談しながらディテールを詰めていきます」

 そのこだわりは、ブランドの定番でもあるシャツにも顕著に表れている。希少価値の高いエジプトの超長綿を細番⼿に紡績し、⾼密度に織り上げたツイルで作られたシャツは、柔らかい肌触りを出すために加工で⼀度⽣地を硬直させた後、何度も叩いてもみ洗いする。これにより適度にクタッとした理想的な風合いになる。本来は裏地である面を表地として使用するのも岩井さん流だ。

これまでのシャツの生地サンプル。〈オーラリー〉デザイナー・岩井良太さんの服づくり。細部まで行き届いた、作り手のセンス。
これまでのシャツの生地サンプル。
シーズンの始めにはイメージするムードに合う色の方向を選ぶ。膨大な中から50〜70色に絞り、見直しを繰り返し、徐々に絞り込んでいく。〈オーラリー〉デザイナー・岩井良太さんの服づくり。細部まで行き届いた、作り手のセンス。
シーズンの始めにはイメージするムードに合う色の方向を選ぶ。膨大な中から50〜70色に絞り、見直しを繰り返し、徐々に絞り込んでいく。

 「とても綺麗な生地なのですが、ギラッと見えがちな素材でもあり、見た目の印象が強いので裏地を使うことにしました。それによって光りすぎず、自然な光沢に、よりマットな質感になる。逆に肌に当たる面は柔らかいので、肌触りもさらに良くなっています」

 シルエットは、ベーシックなスタンドカラーでリラックスした雰囲気だが、首まわりだけはサイズ的にフィットさせたパターンにすることで上品な印象に。また毎シーズンのカラーは膨大な量の色見本を何度も見直して、そのシーズンに使いたい色をピックアップし、生地と合わせて徐々に絞り込んでいく。

 「いつも考えているのは、ものを見るときの距離感。作るときはものすごく近くで素材を見ていて、見えてきた微妙な違いに変化を加えていく。でも合間に引いて見ることも大事にしている。センスいいなと感じる人は、どんな服を着ていても自分のものにしていて馴染んでいる。それは口で説明することでなく、自分なりの基準や俯瞰した視点を持っているから。僕の服も理屈ではなく、“雰囲気がいい”と思ってもらえるのが理想です」

 直感的に体が喜ぶような服には、細部まで行き届いた配慮がある。素材への徹底的なこだわりやその姿勢こそが〈オーラリー〉の洗練された美しさに繋がっている。

岩井良太 Ryota Iwai〈オーラリー〉デザイナー

1983年生まれ。さまざまなブランドで経験を積んだ後、2015年に〈AURALEE〉をローンチ。’18年にはFASHION PRIZE OF TOKYO 2019を受賞。’19年秋冬コレクションよりパリコレに参加している。

photo : Shota Matsushima text : Chizuru Atsuta

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