Art 心を揺さぶるアート。

『安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄』、『かぜのび』。小さいけれど個性的! 空間も楽しめる美術館。July 10, 2022

安田侃 かん 彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄 (p.84) の展示室。閉校した小学校の旧校舎や自然の中に安田の作品が点在する。
安田侃(かん)彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄の展示室。閉校した小学校の旧校舎や自然の中に安田の作品が点在する。

全国には規模は小さいながらユニークな美術館が無数にある。そのなかでも建築や空間も必見な美術館を〈キュレイターズ〉の水野昌美さんが教えてくれた。2022年6月発売の特集「心を揺さぶる、アートの力。」から一部をお届けします。

安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄
北海道・美唄(びばい)
大理石、ブロンズによる安田の作品が約40点展示。右上/雪をかぶった《真無》
大理石、ブロンズによる安田の作品が約40点展示。雪をかぶった《真無》。
緑に囲まれた《妙夢》。
緑に囲まれた《妙夢》。
音の広場にある《真無》。
音の広場にある《真無》。
木立の中に佇む《相響》。
木立の中に佇む《相響》。

季節を問わず楽しめる、自然と一体化する芸術広場。

「ここは春夏秋冬、どの季節に行っても、その時季なりの楽しみに出合うことができます」と、〈キュレイターズ〉の水野昌美さん。
 1945年に北海道美唄市で生まれ、イタリアを拠点に創作を続ける彫刻家・安田侃(かん)。閉山となった炭鉱の町の小学校跡地に作られたこの美術館は、野外を含めて安田の彫刻、約40点を観ることができる。その基本理念は〝今を生きる全ての人が、無心に、自由に、思い思いの時間を過ごすための芸術広場〞であること。自然、人、地域、芸術の交流の場となっているのだ。
「私は夏と冬に行きましたが、夏のキラキラした日差しの中で風を感じるのも素敵だし、雪で真っ白になる風景もいい。彫刻と景色が一体化しているんです。それは、安田さんが設計から関わっていらっしゃるからだと思います。空間全体がどのように見えるのか、作家自身によって考えられ、設置されている。その場に座ったり立ったりして、作品とその周りの景色を目の中に取り込むような感じ。素材である大理石も、北海道の空気感に合っていると思います」
 もう一つおすすめと言うのが、この館内にある喫茶室『カフェ アルテ』。
「店内にも安田さんの彫刻があり、窓から景色を眺められます。そして、ソフトクリームが絶品。外を散歩して、作品とふれあい、カフェでぼうっとする。季節や天気を問わず、素晴らしい時間を過ごせます」

Kan Yasuda Sculpture Museum
Arte Piazza Bibai

Kan Yasuda Sculpture MuseumArte Piazza Bibai

地元出身の安田侃と彼に共感する人々、美唄市によって閉校した小学校跡地を中心とした敷地に1992年開館。今も作り続けられている彫刻公園で、木造校舎や体育館も改修され、展示空間として利用されている。新千歳空港から車で約60分。▷北海道美唄市落合町栄町 ☎0126‒63‒3137 9:00~17:00 火、祝日の翌日休(日曜は除く)

かぜのび
北海道・新十津川町
体育館に設置された巨大な作品《ゆ・ふ・る・じ》。
体育館に設置された巨大な作品《ゆ・ふ・る・じ》。photo : Koji Sakai
地元の103個の石と鉄のフレームで作られた閉校記念碑
地元の103個の石と鉄のフレームで作られた閉校記念碑。photo:Yasuhiro Tsushima
小さめの陶作品。
小さめの陶作品。photo:Yasuhiro Tsushima
廊下などあらゆる場所に展示。
廊下などあらゆる場所に展示。photo:Yasuhiro Tsushima

旧小学校を改修した、彫刻家のアトリエ兼ギャラリー。

 道央の西にある、新十津川町。明治時代に奈良県の十津川村から入植した人々が開拓した町で、この美術館の建物になっている旧吉野小学校は、町のはじまりとともにある学校だった。そこの閉校が決まり、壊すのは忍びないと、新十津川町が改修。彫刻家&デザイナー・五十嵐威暢(たけのぶ)のアトリエ兼ギャラリーとして蘇らせた。
「学校がそのまま美術館になっています。一般社団法人 風の美術館が運営していますが、地元のボランティアや札幌から駆けつけている方など、五十嵐さんのファンの方々が集まり、みんなで応援している。だから、ここだけでなく周辺にも野外彫刻が点在していたり、新庁舎の壁面レリーフが五十嵐作品だったりと、町全体からとても愛されているイメージがあります」
 豪雪地帯のため冬は休館。5 ~10月に一般公開され、雄大な風景とともに静かで穏やかな時間を過ごすことができる。ショップもあり、ここでしか手に入らない五十嵐の小品を求められるのも楽しみの一つ。
「開拓した人たちの歴史が刻まれている、力強く、気持ちのいいパワーを感じる場所でもあります。体育館や廊下、教室も展示室として使っていて、〝小学校ってこんな感じだったなあ〞とちょっとノスタルジックな気分にもなります。遠いので行くのは大変かもしれませんが、建物全体が五十嵐ワールドに包まれていて、幸せな感動に浸れると思います」

Kazenobi

Kazenobi

2011年開館。改修・設計を担当したのは飯田善彦+IAS。運が良ければ五十嵐の制作風景を見ることもできる。車で札幌中心部から約1時間30分、旭川空港から約1 時間45分。▷北海道樺戸郡新十津川町吉野100‒4(旧吉野小学校) ☎0125‒73‒2600 10:00~17:00 月休(祝日の場合、翌日休) 開館期間5 ~10月

SELECTOR
水野昌美 Masami Mizuno 〈キュレイターズ〉代表取締役

美術館づくりから、展覧会の企画・運営、グッズ・図録制作など、幅広く美術館をサポート。今年10月にオープンする軽井沢安東美術館の立ち上げにも関わる。

edit & text : Wakako Miyake

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