MUSIC 心地よい音楽を。
ミュージシャン岡田拓郎さんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.3April 18, 2025
April.18 – April.24, 2025
Saturday Morning

生まれて初めてのアメリカの旅でこの美しいアンサンブルを束ねるセスさんに出会いました。もともと友人であるヨウヘイ・シカノさんの家に訪れた際に「きっと気が合うよ」という粋な計らいで、コントラバスを持って遊びにきた彼を紹介してくれた。そしてロサンゼルスの自然に囲まれた屋外で私たちは瞑想的な演奏を楽しみました。彼の音楽からは、脈々と今日まで受け継がれてきたアリス・コルトレーンやファラオ・サンダースといったアフロアメリカンジャズの音色や精神を彷彿とさせるが、そのアンサンブルは極めて静謐で日本で言うところの”間”を感じさせる。仏教では”間”が意味するところの何もない状態こそ、実は多くのものが含まれていると考えることがある。“余白”や”間”に何らかの意味を見出すことも可能なはず。じっくりと相手の話に耳を傾け、投げかけられる即興的な彼らの会話に、現代的なテーマも垣間見えるように感じます。
シングル『Morning Sun』収録。
シングル『Morning Sun』収録。
Sunday Night

ポール・オリヴァー著『ブルースと話し込む』をちまちま読んでる最中なのでこれに纏わる一曲を日曜の夜の一曲に選んでみました。舞台は公民権運動真っ只中のアメリカ南部。戦前フォーク世代が存命ギリギリのこのタイミングにイギリス出身の著者が客観的な立場のもと現地フィールドワークを重ね音楽のみならず、彼らの生活や家族の話、街で起きたニュースやちょっとした噂話まで、様々な証言をひたすら集めるという、宮本常一『忘れられた日本人』のブルース・ヴァージョン的一冊。本書冒頭で「ブルースとは何か?」の私たちの問いに応えるべく1895年生まれで取材時には60歳を超えていたマンス・リプスカムの示唆的な発言が引用されている。彼の音楽は恥ずかしながらこの本を読んで初めて知ったが、ブルースのみならず、ラグタイムやブギウギ、フォークなど様々なスタイルを親しみやすい歌声とギターで乗りこなす様子に魅了された。
アルバム『Mance Lipscomb Vol. 5』収録。
アルバム『Mance Lipscomb Vol. 5』収録。
ミュージシャン 岡田拓郎

1991年生まれ。東京都福生市育ち。音楽家。2012年にバンド「森は生きている」を結成。『グッド・ナイト』をリリース。2015年のバンド解散後は、ソロ・アーティストとしての活動、環境音楽の制作、即興演奏のほか、柴田聡子、優河、安部勇磨など、他のミュージシャンのプロデュースやエンジニア、演奏者として数多くの作品やライブにも参加している。ギター、ペダルスティール、シンセなどの楽器を演奏する。2022年に即興演奏の編集で構築された『Betsu No Jikan』、2025年にはLAのレーベルTemporal Driftより『The Near End, The Dark Night, The County Line』をリリース。