LIFESTYLE ベターライフな暮らしのこと。
中村ヒロキ、ケルシーの暮らしをつくる愛用品。March 28, 2026
ものの美しさや心地よさに、直感的に触れること。〈visvim〉クリエイティブディレクターの中村ヒロキさんと、ウィメンズライン〈WMV〉のデザイナーの中村ケルシーさんが、日々の暮らしで大切にしているエッセンスだ。&Premium149号(2026年3月号)「これからの、スタンダード」より、日々、世界中を飛び回る二人の日本での住まいを訪ねて、暮らしを豊かにする定番について話を聞きました。
自分のフィーリングを大切に、ものを選ぶこと。
ものづくりは「選択の集積」だと、中村ヒロキさんは話す。デザイン、ディテール、色、風合い、製法。常日頃、そうした事柄に深く向き合い続けている。
「自分たちは、ものを感じるのが仕事。ものを見るときには、何よりも心が反応するかどうかを大事にします」。ケルシーさんが続ける。「ヒロキと私は、ふだんの生活や旅で同じものや景色を見て共有しているものが多いから、美しいと感じるもの、ソウルやエネルギーを感じられる対象は、とても近いものがあるかもしれない。私はヒロキと出かける小さな旅を愛していて、そのときによく骨董市巡りをします。インスピレーションを得る大切な場であり、新しい学びを得られる場でもあって。私が心惹かれたものについて彼に伝えると『ああ、僕もすごくいいと思った』と嬉しい反応がある。そんなふうに、自然に同じ感覚を共有しているんです」
「心に響き合うもの」。それが、いわば、二人の日常のスタンダードなのだろう。暮らしを便利にするものは、多くない。もののプロフィール的な事柄はさておき、自分たちの心を豊かにしてくれるかどうか。それが何よりも大事な観点だ。住まいには、古いものが多いが、意識して古いものを選んでいるわけではない。ヒロキさんは言う。「先入観を排除し、見て、触れて、何を感じるか。なぜそれを良いと思ったかは、後から考える。純粋にものと向き合う時間はすごくエネルギーがいるので正直、疲れます(笑)。でも、その時間に自分のアンテナを磨くことができるんです」
LIVING 暮らしを育むもの。
自然と繋がれる住まいに、身を置くこと。
ヒロキさんとケルシーさんは、カリフォルニアにも拠点を持つ。好奇心を携え、世界各国を旅しながら見聞を深め、心に留まったエッセンスをものづくりへと生かしていく。
日本のこの家で過ごすのは、一年のうち3分の1程度。どの土地で過ごしていても、二人の過ごし方はさほど変わらず、自然を感じて、居住空間や生活を心地よく整えることに重きを置いている。言葉にするととてもシンプルなことだが、どれだけ忙しい時間を過ごしても、地に足をつけて、自分たちならではの心地よさを追求することが、彼らのクリエイティビティを支えている。こうした行為そのものも、〝大切にしている基準〞。二人のコアな部分になっている。
ヒロキさんはソファに腰をかけ、梅の花が咲きはじめたばかりの庭の景色をしばらく静かに眺め、語りかけてくれた。
「感覚的な話ですが、自然とコネクトしていないと本能的な感性は弱まってしまうと思うんです。例えば、クヌギやコナラの樹液を求めて活動するカブトムシが、プラスチックの虫カゴの中に収められたら、生命力が弱まりますよね。僕ら、人間も同じ。だから、自分たちも自然の中の一部という感覚でいられたらいい。そういう精神を持ち続けるために、プラスチックのものは迎え入れない心がけをするのもいいと思うんです」
日常的に〝体で感じる感覚〞を研ぎ澄ませること。そうした体感が、自然からの恩恵で生み出されたプロダクトを選ぶ感性にも分かち難く結びついているのだろう。
ATELIER 創造をもたらす場所。
家で過ごす時間を、心地よく過ごすために。
住まいを彩るのは、古今東西のヴィンテージやアンティークの数々。それらは、人の手仕事の痕跡を感じられるものが多い。どれも、そのものが持っている美しさが最大限に引き出される、心地よい余白を残した配置がなされている。そうした空間のバランスを整えているのは、ケルシーさんである。
「家にあるものは、自分たちにとっては、すべて思い出があるものですし、大好きなものばかり。実用的なものも含めて、愛着を持って使っています。慣れ親しんだ我が家の定番的なものでもレイアウトを変更し、収納棚や道具を使ってデコレーションするだけでものの見え方が変わってくるのが面白くて。ささやかなことだけど、そうしたことは、新たな気づきが得られ、クリエイティブにもいい影響があります。変更するタイミングは、ヒロキが気分転換を欲していそうだな、とふと感じたときに。絶妙なタイミングを見極めて行うようにしています。そうすることで、家で過ごす時間がより楽しく、幸せなことだと感じられるような気がしています」
パートナーの生きる鼓動に耳を澄ませながら、空間に新たな風を送る。ものに宿るソウルや語りかけてくる何かを受け取り、対話するように、しつらえを考える。そんなふうに、ものと深く向き合う日々の累積が、シンプルで美しい暮らしを生み出していく。
長い間、大切に受け継がれた古い空間に、愛しいものが調和していること。二人にとって、そんな景色を眺める時間が、〝暮らしのスタンダード〞と言えるのかもしれない。
ELSEWHERE 日々の道具。
中村ヒロキ、ケルシー Hiroki and Kelsi Nakamura
2000年にスタートしたファッションブランド〈visvim〉でクリエイティブディレクターを務めるヒロキさんと、妻であり、ウィメンズライン〈WMV〉デザイナーとして活動するケルシーさん。素材を重視した着心地の良い、普遍的なものづくりをしている。
photo : Shinnosuke Yoshimori text : Seika Yajima




































































