TRAVEL あの町で。
山口県・長門湯本温泉でめぐる、器の旅。 深川萩の若手陶芸家を訪ねて。October 05, 2022
一楽二萩三唐津。これは茶人たちの間で愛されてきた焼き物の産地のこと。萩焼は松本萩、深川(ふかわ)萩と2つの窯に分かれていて、長門湯本温泉のそばにあるのが深川窯。山口県の無形文化財として名高い15代目坂倉新兵衛さんの息子、坂倉正紘さんの作品が今注目されているという。そこで深緑と登り窯の風景が美しい三ノ瀬集落を見渡せる、坂の上に佇む坂倉新兵衛窯を訪れた。
正紘さんが見せてくれたのは、昨年、東京のグロサリーショップ『eatrip soil』で行われた、料理人・野村友里さんとのイベントのために作った薄いグリーンの器。いわゆる萩焼らしい厚みのある茶碗とは全然違う。
「もともと萩焼は民芸ではなく、毛利藩の御用窯だったんです。今もその文化を守るために茶道具を作り続けていますが、日常使いできるものからオブジェまで興味の向くまま作っています。僕は轆轤(ろくろ)の偶然の回転でできた形や釉薬の流れ具合を大事にしていて、意図ですべてをまとめないようにしています。焼き上がったときに、全然違う形や色が出るほうが嬉しいんです」
坂倉正紘さんの力強い器やオブジェ。
田原崇雄さんの繊細で美しいフォルムの器。
同じ深川窯で作陶する田原陶兵衛工房の田原崇雄さんもこの地を担う陶芸家のひとり。工房に入ると目に入ってきたのが、昔の深川窯の陶片。この破片を研究して崇雄さんが生み出したのが、美しい流白釉の作品だ。
「白釉が流れて生まれる景色が特徴の釉薬で、作品ごとに表情が違うところも見どころです。陶器は形をとどめて残っていくもの。代々続く窯だからこそ、私も父や祖父、先祖の作品と共演させてもらうことや、昔のものから強い影響を受けることもあります。こうしてまた自分の作品が受け継がれ、次の世代に伝わっていくと嬉しいですね」
深川窯で作られた、日常的な器を買いに行くなら。
正紘さんと崇雄さんらが深川窯の魅力を広めるために共に営むのが、温泉街にある『cafe&pottery 音』。同じく深川窯で作陶する坂倉善右衛門さんの作品も交え、普段使いできる器が並ぶ。
深川窯の器で地元の素材を使った料理を。
恩湯を中心に生まれ変わった、長門湯本温泉。
さて、その温泉街。2020年に生まれ変わった『恩湯』が話題だ。約600年前から続く県最古の温泉で、湯船から見えるのは、なんと神像。
「ここの泉源を所有する大寧寺。その住職と住吉神社の神様との伝説があって、住吉の神様が住職から仏法を授かった恩として地域のために使ってくださいと温泉を授けたといわれています。実は改築時にあらわになった岩盤からも温泉が湧き出していたんです。ほら、神像の下からも湧いてるでしょ」と話すのは『恩湯』のリニューアルを手がけた、旅館『大谷山荘』の代表・大谷和弘さん。源泉掛け流しの湯でパワーを享受したら、音信川と山あいの美しい風景の中、そぞろ歩きしたい。
海と山、そして音信川。美しい風景が宿る長門めぐり。
Information
ACCESS
山口宇部空港から長門湯本中心地へは車で約1 時間半。公営駐車場があるので、温泉街は徒歩でめぐることができる。長門湯本温泉を起点に、長門市の中心地へは車で約20分、元乃隅神社までは約40分。空港から電車の場合、最寄りの宇部線・草江駅から宇部駅へ行き山陽本線に乗り換え。厚狭駅で美祢線に乗り換えて長門湯本駅下車。所要時間は約2時間。福岡から直行バスも1日1往復運行。『坂倉新兵衛窯』『田原陶兵衛工房』は訪れる前に必ず連絡を。
photo:Kazumasa Harada illustration : Shinji Abe(karera)