INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
桑山知之、美月さん夫妻の、愛しいものだけを集めた居心地のいい空間とは。January 29, 2025
自分らしい部屋を整えるのに、その“狭さ”はうってつけの条件なのかもしれません。
「狭くて、居心地のいい部屋」を紹介している最新号「部屋と心を、整える」の中から、狭さを上手に賢く利用して、快適に楽しんでいる3組の住まいを特別に公開します。
愛せるものだけを、大切に持つ。
扉を開けると、そこはリビングルーム。日本の住宅によくある、細長い廊下は存在しない。ゆえに、薄暗い空間がなく窓から差し込む光が、真っ白い壁に、木の床に、光と影を映しだしている。桑山知之さんは、微笑みながら話してくれた。
「この窓から差し込む西陽が特に好きなんです。小さなリビングだけど、陰影の表情は見飽きないんですよね」
部屋を内見したのは20軒以上。納得するまでとことんいろんな部屋を見た後に何よりときめいたのは「天井高で、空間の切り替えがある、あまり見ない変わったつくり」と知之さん。ロフトがあり、ふだん使わないものは、ここに置くようにしているという。大きな布で覆って、ものの存在感をさらりと消す。そして、見せたいものは部屋の隅にお気に入りの棚を置いて収納。空間に余白を残すことを大切にしている。収納棚に綺麗に並んでいるのは、少しずつ集めた“愛しいもの”だけだ。
「奥行きがスリムな棚を中心に探しました。私は器が好きで、なかでもガラス素材や蓋ものなどが特に好き。大きなものよりも、ちまちまとした小さなものを愛でる時間に幸せを感じています。新入りを迎えたら、ときどき並べ方を変えるんです。“今日も可愛いね”って、まじまじと見つめたりして(笑)。ひとつ前の家は、今の部屋よりも広くて70㎡ほどでしたが、45㎡の今の家のほうが、好きなものに囲まれている濃度が高まった気がしています。体感的にも心地よいですね」と美月さん。
棚、クローゼット、ロフトに収まるだけのものを持つことを徹底している桑山家。定期的に「断捨離の日」を設け、整理しているのだとか。
「ものを持ちすぎると何を持っているのかわからなくなる。いつだって身軽でいたいんです」
あるべきものをあるべき場所に収めるということ。言葉にすると、シンプルだが、それだけで“心が忙しくならない家”になる。ここにいるだけで十分という気になれるのだ。
桑山知之 / 桑山美月クリエイティブディレクター / 編集者
知之さんは障害のある作家と文化創造を目指す会社〈ヘラルボニー〉で制作を担当。美月さんは、アニメーションスタジオの出版部で編集業に勤しむ。
photo : Tetsuya Ito edit & text : Seika Yajima