INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
「正直な〝好き〞を集めて」。マーチャンダイザー・堤谷美雪さんの、コンパクトでも自分らしい部屋作りの秘訣。February 09, 2023
2023年1月20日発売の『&Premium』の特集は「楽しく部屋を、整える」。狭い部屋や古い家を自分たちらしく整えて、豊かに、楽しくベターライフを送る人たちを取材しました。
狭さがもたらす落ち着き、古さゆえに感じることができる味わい……、一見するとマイナスに思える点だってアイデア次第で素敵な暮らしを実現するポイントになることが学べる特集です。ここでは、マーチャンダイザー・堤谷美雪さんの狭くても自分らしい部屋を訪ねます。
自分だけの、密やかな〝好き〞が詰まった1K。
雑貨を中心としたバイイングやマーチャンダイジングの仕事に携わる堤谷美雪さん。職業柄、部屋にはたくさんモノがあるのかと思いきや、31㎡の小ぶりな1Kの部屋は意外にもすっきりしていて、驚いた。
「日々、様々な商品を扱いますが、それはあくまでもお客様に届けたいものやニーズに合ったもの。目は肥えてきているかもしれませんが、自分が本当に何が好きかについては、まだフワフワしていて。だから、そんなにモノが増えないんです」
ベッドとリビングスペースをゾーニングするために置いているステンレスのオープンシェルフは、「今、好きなもの」を並べる小さなギャラリー。器やオブジェなど、仕事を忘れて好きなものを好きなように飾る。
「好きだな、いいなって思う気持ちや基準って人それぞれで、言葉にするのは難しい。私の場合は淡いピンクやターコイズブルー、繊細な紐やリボンとか。理由を聞かれてもうまく説明できないんですけど(笑)」
部屋を見ると、たしかに至る所にそれらがあって、他人には取るに足らないものでも、彼女には宝物なのだとわかる。「好き」というささやかで切実な想いとは、あるいはそういうものなのかもしれない。
「この部屋を内見したときも、好きだなと思ったんです。お風呂はバランス釜の古い物件ですが、天井が高くて光が綺麗に入る。賃貸には珍しい塗り壁や無垢の床材もよくて」
家具には一目惚れした〈ヴィトラ〉のラウンドテーブルと、ポイントとなっている黒い留め具に合わせて、チェアはブラックの〈ウリヨ・クッカプーロ〉を選んだ。
「かわいい雑貨が好きだけど、武骨なインテリアも好き。そこでバランスを取っているのか何なのか、ちょっとまだ言葉にできませんが……、今はその〝好き〞という気持ちに素直に従って、新しい感覚を広げていきたいなと思っているんです」
人がいいと感じるものが自分にとってそうとは限らないし、〝好き〞を誰かに理解してもらう必要もない。ただ正直に好きでいること。それこそが本当に幸せな、モノや暮らしとの付き合い方なのかもしれない。
堤谷美雪 マーチャンダイザー
東京・青山にある複合文化施設「スパイラル」勤務。販売する雑貨やインテリアなどの企画や販売戦略を担当するマーチャンダイジングに携わる。
photo : Kazumasa Harada illustration : Shinji Abe (karera) edit & text : Yuriko Kobayashi