INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
古家で知る、暑さ寒さに抗わない暮らし。川端雅之さん、江口遥さんの心地よい住まい。September 16, 2023
暮らすために必要だから、やる。家の改修は日常の一環。
築53年。東京23区内の端にある、2階建ての古家の住人は川端雅之さんと江口遥さん。この家のほとんどを自ら改修して暮らしているという。
「これまで何度か住み替えを経験しても、気に入った家を見つけられずにいたんです。ならばと手を加えたくても、釘一本打ちこんだら、貸主に叱られる。大きなお金の持ち合わせもないから、イチから建てることも叶わない。ジレンマを抱えていたときに出合ったのがこの家でした。長らく借り手がつかず、大家さんが解体して駐車場にでもしようとしていたところ。荒れ果てていて、薄暗いし怖いというのが第一印象でした。ただ、大家さんは『何をどうしてもいいよ』と言ってくれた。途端に、何かひらめくような感じがあったんです。設計図を描けるわけでも、大工仕事のイロハがわかるわけでもありませんでした。でもなぜか、知識のある友人たちの手ほどきでも受ければ、面白いことができる気がしたんです」と川端さん。
休日を利用して、まずは川端さんが〝工事〞に着手。どこがどうなっているのかを把握するため、手あたりしだい床や壁を剥がすことから始めた。
「予想以上にシンプルに作られていて驚きました。現代の住宅ほど中の中まで綿密に手が施されたようすがなくて。それで、この家への理解のハードルがぐっと下がり、腹が決まりました」
今、メインルームと位置づけている、ダイニングテーブルを置いた1階の奥の部屋は、ぼろぼろの畳が敷いてあり、天井は落ちかかっていた。そこで、いったんその天井と真上の部屋の床を取り払い、屋根まで吹き抜けに。すると上の窓からぱっと光が差し込んだという。今そこは、吹き抜け感を残すつくりになっている。場当たり的な進め方だったが、「この家本来の姿を明らかにしていきながら、都度、見通しを立てたことは、かえって、よかったのかもしれません」。
畳や床板を敷き、ある程度、足場ができ、掃除が終わった段階で、いよいよ住み始めたそうだ。
「すぐにブレーカーを新しくする必要に迫られ、エアコンを設置しと、およそ賃貸と思えない、始まりでした。ただ、住んでみて、必要に応じ、自分の裁量で改修していくと、間違いや無駄がありません。家がどんどん自分たちが思うカタチになっていきました。ところが、楽しんでやっているかと問われると、そうではないんですよね。なぜって、面倒だからです。ネズミや白アリ被害などもあり、辛いことも多い。でもやらなければ、暮らしにくいから、やる。始めてみてわかったことですが、改修って、あくまで、日常の一環なんです」
江口さんは「私はペンキ塗りやタイル張りを手伝う程度ですが」と前置きした上で、「夏は暑く、冬は花瓶の水が凍るほど寒くて、100%快適ではありません。でも、直して、家と私たちとの距離が縮まると、うれしいんです」と話してくれた。
「飼い猫が、日ごと時間ごと季節ごとに光や風が心地よい場所を探して、家の中を移動するんです。それを見ていたら、心地よさは自分次第で、暑さ、寒さを当たり前に感じられるって幸せなんだと思えてきたりして。家づくりが落ち着いてきたので、ここからは少し、そんな当たり前を味わいます」とふたりは猫を撫で、微笑んだ。
PROPERTY DETAILS KAWABATA & EGUCHI’S HOUSE
家族構成 大人2人、猫1匹 広さ 敷地80㎡(延べ床55㎡)
築年数53年 居住年数 3年
川端雅之 『natto』代表・モデル
江口 遥 衣類雑貨店スタッフ
川端さんはモデルとして活動しながら、内装や家具制作の請け負いも。また古道具店『natto』の始動に向け準備中。江口さんは写真やニット作品の制作も。
この記事は、『アンドプレミアム』NO.118「心地よい住まいを、考えてみた」に掲載されたものです。
photo : Kazumasa Harada edit & text : Koba.A