TRAVEL あの町で。
山と川に抱かれた、名所旧跡の豊かな市街地。林綾野さんが語る、岩手県・盛岡。November 28, 2024
繰り返し訪れているからこそ知っている、季節によって変わりゆく景色。いつも変わらないあの店、必ず買って帰るお土産、ふだんの町並み。旅好きのあの人が語る、何度も足を運んでいる町とその魅力とは。
『香醤』や『福田パン』でローカル気分に浸る。
8年ほど前の初訪ですっかり気に入ってしまってから、積極的に仕事をつくっては通うようになったのが盛岡。ゆったり流れる川と、その向こうに見える山々。空が広く、空気が綺麗で、光が澄んでいて。そんな場所柄もあってか、盛岡の人たちはのんびり、道ゆく車もゆっくりで、決してせかせかしていません。だから私もそこにいるだけでゆるんで、穏やかな気持ちになれるんです。素敵な美術館や画廊などもあって、アートの発信力が強いのも魅力。岩手県立美術館は常設の展示が素晴らしく、松本竣介や舟越保武、萬鐵五郎など岩手に縁がある作家の作品が初期から晩年のものまで、いつでも観られるというのは実はかなり貴重です。『光原社』に必ず寄るのは、宮沢賢治、柳宗悦、芹沢銈介と関わりの深い歴史に文化的好奇心が満たされるだけでなく、ショップやギャラリー、カフェなど、多面的に堪能できるから。地元の方と夕食をご一緒したときなどに締めで行くのが『香醤』。麺のあとに卵を入れて飲むちいたんたんも含めて、まさに盛岡でしか味わえないソウルフード。地元の人たちに交ざって夜中に食べていると、自分も地元民に仲間入りした気分になれます。朝いちばんに『福田パン 長田町本店』に出かけていって、コッペパンに好きな具材を挟んでもらうのも、ちょっと地元の人みたいに思えて嬉しくなります。
岩手県・盛岡
Morioka_Iwate
岩手県の県庁所在地で、東北における中心的な都市のひとつ。四方を山に囲まれた北上盆地にある。ニューヨーク・タイムズ「2023年に行くべき52カ所」に選出された。東北新幹線で東京から約2時間。
林綾野 キュレーター・アートライター
Ayano Hayashi
キュレーションを手がけた『堀内誠一 絵の世界』が7月6日から島根県立石見美術館で、『谷川俊太郎 絵本★百貨展』が7月20日から高松市美術館で開催予定。著書に『画家の食卓』(講談社)など。
illustration : Naoya Sanuki text : Shoko Matsumoto