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映画美術監督・三ツ松けいこさんが選ぶ、DIY心を掻き立てられる映画。MOVIES FOR LIFE 02 / September 03, 2021

ファッションやカルチャー、日々の暮らしをベターにしてくれるちょっとしたアイデアまで、いつの時代も映画はたくさんのことを教えてくれます。本誌94号の特集「映画が教えてくれる、素敵なこと」から、映画美術監督の三ツ松けいこさんに聞いた、DIYマインドを教えてくれる3作品の見どころを語ってもらいました。「もう少しこうしたいという理想の暮らしの実現や、現状を何か変化させたいという思いの表れでもあるDIY。そうしたシーンのある映画は、人の心の機微が描かれていて惹きつけられます」

思春期特有の甘酸っぱさを感じる手作りの旅。

グッバイ、サマー
   

主人公は、学校でも家庭でも居心地の悪さを感じている二人の少年。友達ができないとか、自分は少し変わっているのではという思春期の心の揺れ動きがとてもよく描かれた作品です。そんな二人が抑圧された日々から抜け出すために手作りのキャンピングカーで旅に出る。DIYの質も高いし、作っているときの表情も生き生きしていていい。学校生活では理不尽に感じることも多いかもしれませんが、実はそういうことは身の回りにもたくさんあって。周囲に順応していくのではなく、違いを突き詰めていく姿勢に勇気をもらいます。

   

グッバイ、サマー

ミシェル・ゴンドリー
Microbe & Gasoline / 2015 / France / 104min.

画家志望のダニエルは、学校では女の子のような容姿でからかわれ、多くの悩みを抱えていた。そこにやってきた目立ちたがりで変わり者の転校生・テオ。浮いた存在の二人は意気投合し、スクラップを集めて自作した「夢の車」で一夏の旅に出ることを思いつく。

自分の居心地のいい場所をつくるために。

はじまりへの旅
   

大自然の中、社会の既存のシステムから離れたところで暮らす家族。森での暮らしであっても、父親の教育のおかげで子どもたちには学力も体力も高いレベルで身についていて、自分たちで小屋を作って、自給自足をして、夜には焚き火を囲んでと、ある意味では憧れ の生活です。この映画で描かれている暮らしを見て、DIYとは自分の居心地のいい場所をつくるためのものでもあるんだなと感じました。旅の途中で現代社会に接し、悩み、考える子どもたちの姿がとてもいい。新たな生活を始めるラストシーンにも胸を打たれます。

   

はじまりへの旅

マット・ロス
Captain Fantastic / 2016 / USA / 119min.

アメリカ北西部の森の奥深くで独自の教育方針に基づき6人の子どもを育てる父。ある日、入院中の母が亡くなった報せを受けた家族は、葬儀に出席するためニューメキシコを目指して旅に出る。現代社会との初めての関わりに子どもたちは戸惑い、生き方を模索する。

光を求める、人間の根源的な渇望が生むDIY。

ル・コルビュジエの家
   

ある日突然、隣人がハンマーで壁を壊して窓を作り始めたら驚きますよね。それだけで一本の作品になってしまうのが、この映画のすごいところ。最初は奇想天外に見える隣人も 「ここに余ってる陽の光を少し分けて欲しいだけだ」と主張する彼の訴えは、実は真っ当な感情で。部屋探しの際に「ここに窓があれば」と思ったことは、きっと誰もがあるはず。それを実行してしまうところに強いDIYマインドを感じます。衝動に忠実な隣人の行動が とても人間的に思えて、正しいこととは......と考えさせられる作品です。

   

ル・コルビュジエの家

ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン
The Man Next Door / 2009 / Argentina / 103min.

舞台はアルゼンチンのブエノスアイレス。ル・コルビュジエが設計したクルチェット邸に 暮らす主人公レオナルドは、ある朝、ハンマーで壁を壊す物音で目が覚める。「陽の光を 少し分けて欲しい」、そう主張する隣人とのやりとりから、様々な問題が浮上していく。

   

三ツ松けいこ Keiko Mitsumatsu

映画美術監督。『万引き家族(』是枝裕和監督)で第42回日本アカデミー賞優秀美術賞受賞。『永い言い訳』『すばらしき世界(』ともに西川美和監督)など多数の作品を手がける。

   

illustration : Yuta Morizaki
※『&Premium』No. 94 2021年10月号「映画が教えてくれる、素敵なこと。」より

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