MOVIE 私の好きな、あの映画。
『John』オーナー 作田幸繁さんが語る今月の映画。『メッセージ・イン・ア・ボトル』【極私的・偏愛映画論 vol.110】January 25, 2025
This Month Theme住まいの空間づくりに魅せられる。
愛し合う男女が大切に紡いだ、「時間」の重みを感じる家。
僕が映画を観るうえで、着目していることは、ストーリーやセリフももちろんそうだが、それと同等に、バックに映る風景も意識して観るようにしている。さりげなく映し出される登場人物の自宅や、行きつけのお店のインテリアなど、色々な発見や妄想が膨らむ。
たとえば口数が少ないキャラクターでも、部屋に置かれた可愛らしい動物のオブジェや綺麗に飾られた花などを見れば、その人物の印象が少し変わって見えるように。
全ての映画監督がそうしたことを狙っているかは分からないけれど、日本の偉大な映画監督、小津安二郎は自前の食器や道具を使って役者に演技をさせていたと言われているくらい、実は意味が込められた作品も多いのではないかと思っている。
そうしたことを踏まえて、僕が「住まい」をテーマにした映画で一番はじめに浮かんだのが、1999年に公開されたケビン・コスナー主演の『メッセージ・イン・ア・ボトル』だ。
シカゴの新聞社に勤めているテリーサ(ロビン・ライト)が、休暇で訪れた海岸で砂に埋もれたあるひとつの瓶を見つける。そこには謎めいた手紙が入っていた。それは亡くなった妻、キャサリンに宛てられたもの。テリーサは、その手紙の内容に恋をしてしまい、手紙を書いた人物を探し始めるようになる。
手紙の文章に含まれた手がかりをもとに、遂にその人物のもとを訪ねることに……。次第に、テリーサとギャレット(ケビン・コスナー)は会話を重ねるうちに意気投合し、互いに惹かれ合っていく。
ある日、テリーサがギャレットの自宅に招かれる。海辺からワインを片手に登場するテリーサと、キッチンでひとり料理をして待っているギャレット。そこに描かれているギャレットの自宅がもうなんともいえないくらい素敵なのだ。その部屋を見た瞬間、何故か込み上げてくるものがあった。
海と緑に囲まれたキッチン。様々な調味料や器具たちが整理され、わかりやすく配置されている。キッチンは外からの光と風が入るように設計されていて、海風を感じながら料理をする時間は、なんて幸せなのだろう。そう、強く思った。
視線を転じると、ところどころに置かれてあるアンティークのキャビネットと目が合う。白くペイントされた可愛らしいもの、たくさんの引き出しのあるウォルナットの大きめのものなど。白と茶色の色のバランスがいい具合だ。さらに、家の中から見える青色の海と植物の緑も“彩り”である。“外の景色もインテリアの一部”として捉えられるのだ。
リビングはキッチンに比べて、トーンが暗め。自然光の明かりとところどころに配置されたテーブルランプの光によって、空間全体が落ち着いた雰囲気を纏っている。中央には、2人が寛いでいたであろう、ふかふかのレザーのソファーが置かれている。目の前にはレンガで作られた大きな暖炉、隣には絵を愛した亡き妻のアトリエスペースがある。そこにもキッチン同様に外からの光がたくさん入るようなつくりだ。海を眺めながら絵を描くキャサリンと、その姿を眺めながらソファーでくつろぐギャレットを勝手に妄想してしまった。
そのほかにも積み上げられた本や書類、壁に掛けられた写真や絵画。棚に置かれたたくさんの貝殻など、そこかしこに“2人の色と愛”が溢れている。
そんな住まいの空間を眺めているとふと、ストーリーの鍵である亡き妻に宛てたラブレターのことを想った。彼は本当に幸せな暮らし、日々を送っていたのだろう、と。映画の最後にでてくる手紙に「あとは想い出の中で生きる」とギャレットの想いがこめられている。キャサリンは登場しないが、彼女がどんな人物で、2人がどんな暮らしをしていたのか。その数秒のシーンだけでも、ありありと浮かんでくるようだった。
何度も繰り返してみてはインテリアの参考にしたが、やはりどうしたって真似できない唯一無二の空間だ。ぼくは住まい手の生き様や、個性が感じられる家に強く惹かれるし、大切に、長く使われた家具や道具たちとともに日々の暮らしが作り上げられていることほど、美しいものはないと思っている。本作はそれを見事に映し出した映画だと思う。
illustration : Yu Nagaba movie select & text:Yukishige Sakuta edit:Seika Yajima