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山に登り、本来の自分を取り戻す。フリーランスPR・佐竹彩さんのひとりの時間のつくり方、楽しみ方。October 17, 2024
時間を忘れて目の前のことに夢中になったり、自然に囲まれて思い切り心と体を解放したり、内なる声を聞き、思いのままに過ごす時間は、心と体のメンテナンスのために必要なこと。ひとり上手なあの人に聞いた、ふだんの自分だけの時間の過ごし方と、そのとき考えていること。
山の中で数時間。日常から距離を置き、本来の自分を取り戻す。
「これから山に行くので、メールの返事は遅くなります」。フリーランスPRとして日々忙しく過ごす佐竹彩さんはそう言ってひとり、山へ登る。
「考えが煮詰まっているときにひとりで山へ向かいます。気持ちのいい山道を黙々と歩けば『そこまで悩むほどのことでもないな』ってネガティブな思考は飛んでいってしまうんです。しかも、大きな山を目の前にすると、あまりにも自分の存在がちっぽけに思えてきて。母親だったり先輩だったり、日常では誰もが役割を持っていると思うんですけど、壮大な自然と向き合うと何者でもない、ただの自分になれる。近頃はスマホのおかげでいつでもどこでも連絡ができるので、仕事とプライベートの境界が曖昧になってしまったり、同じアプリを一日に何度も見ていることもありますよね。でも山中では電波が届きませんし、携帯は機内モードにして誰とも繋がらない状況をつくることで、自分自身と繋がる時間をつくれるんです」
この日登ったのは、御殿場口新五合目から富士山の南側にある2 つの山、二ツ塚を周遊するコース。標高が上がるにつれて緑から黄色へと姿を変える美しい樹林帯では、鹿が歩き、木々の合間から注ぐ光に照らされたきのこや苔が輝いている。気を抜くと滑り落ちてしまいそうな斜面も、佐竹さんはひょいひょいと軽やかに登っていく。
「本格的にハマったのは27歳の頃。写真家の友人が『1泊2日で山登りに行こう』と誘ってくれて、福島県と栃木県の県境の那須岳に登りました。そのときに山の美しさを知って、冬の山や2泊3日以上の登山に挑戦するようになりましたね。今日のように雲ひとつない、晴れた日の山も素敵ですが、1泊すると朝と夕方の景色が見られて、それがとっても綺麗。冬になると光の反射で雪山がピンク色になったりもするんですよ」
登山は装備と体力さえあれば誰でも楽しめます、と佐竹さん。自分と向き合うためだけでなく、体力づくりでひとり登山をすることもあるという。
「3泊4日の山登りだと、10㎏ほどの荷物を背負い続けることになるんです。荷物が重すぎて、このまま2日目登れないかも……と思っても簡単には帰れない(笑)。だから、3日間登り続けられる体力をつけるために、近所の小さな山でサクッとトレイルランニングをすることもあります」
佐竹さんいわく「いかに軽く、気持ちよく行けるか、というのも山登りでは重要」。限られた装備のなかで、欠かせないアイテムを教えてくれた。
「『ヤマレコ』は必ず使うようにしています。機内モードでも電波が届かなくても、GPSで歩いた軌跡を残せるアプリで、友達に現在地を共有することもできるんですよ。友達と一緒ならどうにかなるかもしれませんが、ひとりだと怪我をしても気づいてもらえないことだってある。すべて自己責任なので紙の地図とセットで持っていきます」
ひとりでいると話しかけてくれる人が多く、新たな出会いもあるという。この日も山小屋付近で居合わせた老夫婦が気さくに声をかけてくれた。
「こういった交流もひとり登山の醍醐味。すれ違う際に挨拶や会話をしたり、お互いを気遣う優しさが山にはあるんです。日本の山しか登ったことがないので、次は海外にも挑戦してみたいですね」
佐竹彩 Aya SatakeフリーランスPR
1989年神奈川県生まれ。セレクトショップ〈ビームス〉でのプレス業を経て、2021年 よりフリーランスのPRに。登山以外に自転車やサーフィンも愛する。
photo : Eriko Nemoto text : Nozomi Hasegawa