FOOD 食の楽しみ。
お弁当ケータリング業、文筆家の麻生要一郎さん。お取り寄せ品を介して関係性を築く。 料理上手たちの、お取り寄せのある暮らしJanuary 15, 2023
2020年12月20日発売の本誌特集は『真似をしたくなる、お取り寄せ』。料理家をはじめ食の分野で活躍する人たちは、どんなふうにお取り寄せを使いこなしているのだろう。 味わいはもちろんのこと、作り手や、ともに分かち合う仲間との交流も大切に。身近で手に入る食材も上手に組み合わせながら日々の食卓を豊かに楽しむ6人に、おすすめの取り寄せリストと料理を教わった企画「料理上手たちの、とっておきのお取り寄せのある暮らし」から、ここではお弁当ケータリング業や文筆家として活躍する麻生要一郎さんを紹介します。
相手の気配を感じる 新鮮な買い物体験。
昔ながらの優しい味わいのおかずを詰めたお弁当が人気の麻生要一郎さん。最近はお弁当のケータリング業の傍ら、料理エッセイを刊行するなど文筆家としても活躍の場を広げている。そんな麻生さんにとってのお取り寄せとは、特別な日ではなく日常的にいただくもの。一年を通して決まって何度か注文し、欠かさないようストックしておくもの。
「昔からお取り寄せをしていましたね。それこそネットがない時代は、旅先で地元の人しか知らないような店を見つけたり、人づてに聞いたりしてリストを増やしていました」
今は次第に淘汰され、馴染みのところばかり。麻生さんは現在、自宅マンションの大家である姉妹の養子になっていることもあり、彼女たちのひいきのお取り寄せ先も加わった。今回挙げた『今田(こんた)製麺所』の蕎麦と『山元馬場商店』のうなぎは数か月に1回注文する。両店とのやり取りは7〜8年だが、養母たちはかれこれ50年ほどの長い付き合いがある。
「僕はその関係性を引き継いでいる感じですね。養母たちはこの蒲焼きで年越しするのが恒例でもあるので、年末には必ず注文しています。頭付きのうなぎが入っていて、頭がいい出汁になるんです。里芋と煮るとおいしいというのは彼女たちから教えてもらいました」
一方、ここ最近麻生さんのお取り寄せリストに加わったのは『金七商店』の鰹節。主に出汁を取るときに使っていて、そのおいしさに惹かれているが、定期的に頼むきっかけは愛猫だった。
「これ以外の鰹節を受け付けなくなってしまって。今まで買っていたものは全く見向きもしないくらい頑なです(笑)」
同じくよく注文するようになったのが『ユヌクレ』のパン。朝はいつもパン食の麻生さんは、これまで店に買いに行っていたが、売り切れで欲しいものが買えない日が幾度となくあったという。そんなストレスからパンの取り寄せを試したところ、この店に落ち着いた。
「毎日必ず食べるものなので、安定して手に入って、おいしいものがいい。セットだと、これはいいけど、これはいらないみたいなこともあるんですけど、『ユヌクレ』のパンは自分とのマッチングがうまくいってる気がします。そのパンと一緒にいただくヨーグルトは『森林ノ牧場』のもの。無添加と記載があってもどこか違和感を感じるものもあるのですが、このヨーグルトは違う。本当に余計なものが入ってない味がします」
冷凍でストックできて便利な『ピザラボ』のピザは、疲れて何もしたくないときの心強い味方。
「冷凍庫にストックしておくといざというときに助かる。もちろん店で食べるものとは違いますが、それでもおいしいのでかなり満足感がある。『今日は疲れた、作る気力がない、でもピザはある』みたいな感じで心の安心材料として冷凍庫に常備してあります」
麻生さんが今回挙げてくれたお取り寄せ先は、店との関係性を築いているところばかり。相手も注文者がわかるからか手紙やちょっとしたおまけ的なものを添えてくれることもあるという。
「お取り寄せって、ネットでクリック一つ、あるいは電話一本で、店主の顔も見ずに買うものだから、一見ドライですよね。でも何となく関係性ができてくると、メモ書き一つとっても相手を近くに感じられる。普段の買い物で『いつもありがとうございます』とは言われるけど、手紙をもらうことはないですもんね。箱を開けた瞬間、ささやかな心遣いが伝わるのがお取り寄せの楽しみ。店頭での買い物とは違う、新鮮なコミュニケーションがここにはあると思います」
麻生要一郎さんの取り寄せリスト
photo : Tetsuya Ito edit & text : Chizuru Atsuta