FOOD 食の楽しみ。

料理家・冷水希三子さんのお取り寄せ。
特別な日でも簡単に華やかに。 料理上手たちの、お取り寄せのある暮らしJanuary 14, 2023

2020年12月20日発売の本誌特集は『真似をしたくなる、お取り寄せ』。料理家をはじめ食の分野で活躍する人たちは、どんなふうにお取り寄せを使いこなしているのだろう。 味わいはもちろんのこと、作り手や、ともに分かち合う仲間との交流も大切に。身近で手に入る食材も上手に組み合わせながら日々の食卓を豊かに楽しむ6人に、おすすめの取り寄せリストと料理を教わった企画「料理上手たちの、とっておきのお取り寄せのある暮らし」から、ここでは料理家の冷水希三子さんを紹介します。

料理家・冷水希三子さんのお取り寄せ品 3 種。ウォッシュチーズと放牧平飼いの鶏が産んだ卵は北海道から。千葉県の農場で育て られた無農薬ハーブを束ねたブーケは、人を招いたときなど、お もてなしの際に取り寄せることが多い。
料理家・冷水希三子さんのお取り寄せ品 3 種。ウォッシュチーズと放牧平飼いの鶏が産んだ卵は北海道から。千葉県の農場で育て られた無農薬ハーブを束ねたブーケは、人を招いたときなど、おもてなしの際に取り寄せることが多い。

味の良さだけでなく、 作られている環境も大事。

昨日は福岡、明日は北海道と全国の生産者のもとへ取材やプライベートでひんぱんに訪れている料理家の冷水希三子さん。そこまでする理由は、食材が育つ環境を自分の目で確かめたいから、という一言に尽きる。彼女が取り寄せている品々も友人に聞いたり、自分で調べたりしたなかから、こだわって育てているもののみをお願いしている。

「おいしいものって世の中にたくさんあるじゃないですか。そのなかで何を選ぶかは、味の良さだけでなく、いかに環境を整え、ちゃんと育てているかが重要になってくると思うんです。お取り寄せ品に限らず、いつもの食材も、なるべくそういうものを選ぶようにしています」

撮影の前週も有明海産の秋芽一番摘みの海苔を扱う福岡『成清海苔店』の案内で、工場や海苔畑を見学してきたばかり。

「海苔の赤ちゃんなんて見たことがないので、すごく興味があって。成清さんは一番摘みの海苔しか扱わないんです。一年のうち11月下旬くらいの最初の5日間しか収穫できないので貴重だし、栄養もたっぷりでおいしいのですが、彼らがこだわるのはそれだけではない。二番摘み以降は、いろいろ人工的な処理を加えなければならないので、どうしても海へ負担がかかってしまう。そういった自然に反することはしたくないというのが理由なんです。それは実際に会って、海に広がる海苔畑を見ながら話さないとなかなか理解ができない。取り寄せるにしても、ただものを受け取るだけでなく、きちんと背景を知りたいと思っています」

生産者に会うのは、友達を訪ねるのと同じ感覚だと、冷水さん。仕事柄できるだけ安全なものを、という思いもあるが、食に対する強い好奇心が、あらゆる産地に出かける原動力になっている。

『成清海苔店』の海苔に炊きたてのご飯を挟んだだけで、ごちそうになる。海苔にしっかり厚みがあり、程よい塩分と風味がご飯を引き立てる。握らずに挟むだけ、というのも手軽。
『成清海苔店』の海苔に炊きたてのご飯を挟んだだけで、ごちそうになる。海苔にしっかり厚みがあり、程よい塩分と風味がご飯を引き立てる。握らずに挟むだけ、というのも手軽。
河内鴨の孵化、飼育、精肉まで全工程を自社で行う大阪『河内鴨 ツムラ本店』の肉は鍋で軽くしゃぶしゃぶするだけで格別な味わい。京都『湯波半老舗』の引き上げゆばと一緒に。
河内鴨の孵化、飼育、精肉まで全工程を自社で行う大阪『河内鴨 ツムラ本店』の肉は鍋で軽くしゃぶしゃぶするだけで格別な味わい。京都『湯波半老舗』の引き上げゆばと一緒に。
外皮を塩水や酒で洗いながら熟成させる、ウォッシュタイプのチ ーズ。『しあわせチーズ工房』のとろりと熟したチーズは、スプーンなどですくいながら軽くトーストしたパンやワインと一緒に。 匂いも含めて、口の中に芳醇な味が広がる。特別な日でも簡単に華やかに。料理家・冷水希三子さんのお取り寄せのある暮らし。
外皮を塩水や酒で洗いながら熟成させる、ウォッシュタイプのチ ーズ。『しあわせチーズ工房』のとろりと熟したチーズは、スプーンなどですくいながら軽くトーストしたパンやワインと一緒に。 匂いも含めて、口の中に芳醇な味が広がる。
『苗目』のハーブブーケから、ホーリーバジルの葉っぱをイチゴ と合わせ、オリーブオイルとビネガーをかけてサラダに。イチゴ にハーブの香りが移り、爽やかな一皿に。添えているのはメレン ゲ。これをモッツァレラチーズにしてもいい。特別な日でも簡単に華やかに。料理家・冷水希三子さんのお取り寄せのある暮らし。
『苗目』のハーブブーケから、ホーリーバジルの葉っぱをイチゴ と合わせ、オリーブオイルとビネガーをかけてサラダに。イチゴ にハーブの香りが移り、爽やかな一皿に。添えているのはメレンゲ。これをモッツァレラチーズにしてもいい。
その日に使わなかったハーブは、花器に挿して、他のグリーンと一緒に飾りながらキープするのが冷水さん流。見た目も美しく、長持ちする。摘みながら料理に生かすのも楽しい。特別な日でも簡単に華やかに。料理家・冷水希三子さんのお取り寄せのある暮らし。
その日に使わなかったハーブは、花器に挿して、他のグリーンと一緒に飾りながらキープするのが冷水さん流。見た目も美しく、長持ちする。摘みながら料理に生かすのも楽しい。

「お取り寄せ品との最初の出合いは友人の紹介や、生産者さんとのつながり、催事などで食べたのがきっかけになることが多いです。まだ訪ねられていない生産者さんもいますが、それでも必ず電話やメールで直接やりとりをしてから頼むようにしています。みなさん、ご自分の作った食材に誇りを持っていらっしゃるので、熱心にお話ししてくださいます」

今回、紹介してくれた6品は海苔以外、常にストックしているというより、人を招いたときなどに頼むことがほとんど。

「河内鴨とゆばの鍋は、人が集まったときによくやるメニュー。鴨は頼んだ日に合わせて捌いてくれるので、近所の店で買うより新鮮なんです。ゆばは、昔ながらの製法で作られていて豆の味がしっかりしています。京都にはたくさんおいしい生ゆば屋さんがありますが、ここを知ってからは、この店のものばかりですね。『ビバリーナチュラル』の放牧平飼いの卵も大量に使いたいときに、必ずといっていいほどお願いするものです」

北海道の茂喜登牛(もきとうし)のチーズも友人たちとワインを飲む予定があるときなどに登場する。そして、『苗目』のハーブは、撮影でも活躍。

「ハーブ自体はいろいろなところでお願いしていますが、苗目さんのはとてもきれいなので、美しい盛り付けを要求されるときに頼むことが多いですね。余ったら、水に挿して飾っておいてもいい。そこからちょこちょことつまんで料理に使う。飾りながら食べられるっていいですよね。新鮮で元気なので、放っておくと根っこが出てくるんです。それを土に植えることもあります」

自分だけで楽しむのもいいけれど、せっかくおいしいものが手に入ったなら仲間と一緒に分かち合いたい。食材の背景や生産者のものづくりの姿勢に対する冷水さんの熱い思いは、お取り寄せ品を通して、周りの人にも喜びを届けている。

特別な日でも簡単に華やかに。料理家・冷水希三子さんのお取り寄せのある暮らし。だし汁に酒、みりん、醤油を入れた鍋に柚子を丸ごと投入。沸騰したら、スライスした河内鴨ロース肉と引き上げゆばをしゃぶしゃぶして食す。一通り楽しんだら、セリなどの青菜を入れるのもおすすめ。シメは冷たいそばに温かい鍋汁をかけて。
だし汁に酒、みりん、醤油を入れた鍋に柚子を丸ごと投入。沸騰したら、スライスした河内鴨ロース肉と引き上げゆばをしゃぶしゃぶして食す。一通り楽しんだら、セリなどの青菜を入れるのもおすすめ。シメは冷たいそばに温かい鍋汁をかけて。

冷水希三子さんの取り寄せリスト

特別な日でも簡単に華やかに。料理家・冷水希三子さんのお取り寄せのある暮らし。
『成清海苔店』の海苔

日本一の海苔生産量を誇る福岡県の有明海。この店では、秋芽一番摘みの海苔のみを扱う。完全無添加無着色の海苔は、旨味のもとであるアミノ酸が多く含まれ、味も香りも抜群。冷水さんが気に入っている皿垣開漁協産の「優等」 は色、つや、味ともに最上級。ほかにも種類があるので、 自分の好みに合ったものを探したい。皿垣開漁業協同組合 は全国で初めて、海苔に〝味検査〞を導入したところでも ある。「一番摘みというのだけでなく、採った海苔を細か くみじん切りにして、漉いているそう。そうすると厚みのあるものが出来上がるんです。その手間を惜しまないところも尊敬します」と、冷水さん。右/有明海苔 優等(全 型10枚)¥1,944、左/皿垣開漁協産 焼きのり(全型10枚) ¥972*2023年 1 月10日以降、価格改定予定。
▶︎HOW TO ORDER オンラインショップから注文。発送便の指定不可。 www.narikiyonori.net

特別な日でも簡単に華やかに。料理家・冷水希三子さんのお取り寄せのある暮らし。
『河内鴨ツムラ本店』の河内鴨肉

1870年創業の大阪府松原市にある河内鴨専門店。かつては鴨の飼育場が近所にもたくさんあったが、今では大阪で飼育、出荷しているのはほぼここだけという。孵化から飼育、処理、加工、卸、小売りまですべて自社で一貫して行う。独自交配させた合鴨を、1 坪あたり7羽程度の密度に保った大きな鶏舎で平飼いにて長期間飼育。抗生物質や成長ホルモンを使わず、厳選した無農薬飼料を食べさせている。時間や手間はかかるが、その分、鴨にストレスがかからず、安心・安全な上、おいしく仕上がる。この店でもっともおすすめなのはロース肉とのこと。「私はふだんはブロックで購入していますが、切るのがけっこう難しいので、スライスされているもののほうが扱いやすいと思います」。河内鴨ローススライス 500g ¥6,980。
▶︎HOW TO ORDERオンラインショップから注文。公式オンラインショップwww.eat-1.info/shop

特別な日でも簡単に華やかに。料理家・冷水希三子さんのお取り寄せのある暮らし。
『苗目』のハーブ

千葉県鴨川市で、無農薬・無化学肥料ハーブとエディブルフラワーを育てている農場。約1000坪の温室で、冷暖房を一切使わず、自然に近い環境で100種以上を栽培する。ハーブやベビーリーフといったカテゴリー別、花、葉、種といった部位別、甘い、苦いなどの味や香り別から選ぶこともできる。ハーブブーケはアフリカンブルーバジル、ツリーバジル、ホーリーバジル、ラベンダー、スケルトンゼラニウム、レモンバーベナ、カルダモンリーフなど約10種類のグリーンを束ねている。「ボックスで頼んだり、花だけ をお願いすることもあります。硬い葉のものは乾燥させてハーブティーにするなど、いろいろと活用できます。新鮮で、香りもとてもよいので届いて開けたとき、嬉しくなります」。オーガニックハーブ ブーケ¥4,320。
▶︎HOW TO ORDERオンラインショップから注文。¥ 10,000以上で送料無料。www.naeme.jp

特別な日でも簡単に華やかに。料理家・冷水希三子さんのお取り寄せのある暮らし。
『湯波半老舗』の引き上げゆば

大豆から豆乳を作り、温めたときに表面に張る膜がゆば。 しゃぶしゃぶに最適な引き上げゆばとは、膜の両端から竹 串を差し入れて引き上げてできるもの。平ゆばという別名 もある通りシート状になっていて、しっかりとした食感を楽しむことができる。京都の『湯波半老舗』は、1716年創 業。300年以上受け継がれてきた石臼ひきの製法を使い、 熟練の職人の手によって、一つ一つ丁寧に作られている。「東京の『紀ノ国屋』に限定で置いてあったのを見つけて食べたのが最初です。挨拶はしませんでしたが、京都の店に行ったことも。ちょっとのぞいたら昔ながらの工房で職人さんたちが働いていて、その風景だけでもおいしそうでした。料理に合わせて汲み上げゆばや、さしみゆばをお願いすることもあります」。引き上げゆば( 5 枚)¥1,080。
▶︎HOW TO ORDER初めて注文する場合、電話にて相談を。☎075‒221‒5622(8:00~17:00 木休)

特別な日でも簡単に華やかに。料理家・冷水希三子さんのお取り寄せのある暮らし。
『しあわせチーズ工房』のチーズ

北海道足寄町(あしょろちょう)茂喜登牛(もきとうし)の山の上にある小さなチーズ工房の 品。原料には通年放牧をしている「ありがとう牧場」の生乳を主に使用している。チーズ職人の本間幸雄は、自分の 理想のチーズを作るために北海道に移住。搾りたての生乳を分けてもらい、持参した寸胴鍋とカセットコンロでその場でチーズを作りながら、自分の思いを形にできる場所を探したという。そして、落ち着いたのが茂喜登牛だった。 このウォッシュチーズは、ミルクの甘味とほのかなエゾマツの香りが特徴。熟成が進むにつれ、とろけるような柔らかさになる。「賞味期限ギリギリまで熟成したものが私の好み。そのままでもおいしいけれど、焼いても美味です」。 エゾマツの茂喜登牛‒mokitoushi‒ 650g ¥5,500。
▶︎HOW TO ORDERオンラインショップから注文。少量生産のため商品によっては欠品、発送に時間がかかる場 合がある。www.shiawasecheese.com

特別な日でも簡単に華やかに。料理家・冷水希三子さんのお取り寄せのある暮らし。
『ビバリーナチュラル』の卵

北海道・根室半島の農園で、雛から自由に動き回って放牧平飼いされている鶏が産む卵。腐葉土や堆肥などの土作りから始め、その土が栄養のある草や微生物を育て、それを食べた鶏の糞が再び土の栄養になるという循環する飼育環 境を整えている。飼料にもこだわり、オーガニック小麦と北海道産大豆、米ぬか、根室産昆布、酒粕、イオン水などを混ぜて発酵させ、地元の新鮮な白身魚と牡蠣殻を加えて いる。そんな鶏たちが産んだ卵は、健やかで弾力ある濃厚な味わい。写真は春の雛が育って産んだばかりの初卵Sサイズ6個入り。「ふだんからある卵もすごくおいしいけれど、初産みは期間限定。もし、手に入るならこちらもおすすめです」。初卵と通常卵が入った、食べ比べセットBeve rly Natural-美波里のたまご-(24個入り)¥2,592。
▶︎HOW TO ORDERオンラインショップから注文。スマホ決済などにも対応。www.beverlynatural.com

冷水希三子
Kimiko Hiyamizu

レストランやカフェ勤務を経て独立。季節の素材を生かした料理 を心がける。フードコーディネートやスタイリング、レシピ制作 を中心に広告、雑誌、書籍などで活躍。著書に『さっと煮サラ ダ』(グラフィック社)など。

photo : Tetsuya Ito edit & text : Wakako Miyake

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