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京都『キュー』大木真奈美さんが案内。感度の高さと素朴さとが交じる、嵐電沿線を途中下車の旅。March 03, 2024

京都はいつ訪れても発見に満ちた街。だからこそ、好奇心に任せ、気ままに巡るのが面白いと思うのです。現地在住のガイドが案内する、古都のふだんの表情。ここでは、『キュー』オーナー、大木真奈美さんが嵐電の魅力について教えてくれました。

1910年に開通して以来、嵐電の名で親しまれる京福電気鉄道。京紫色と呼ばれる車両の色は100周年を機に採用されたイメージカラー。写真は広隆寺の楼門の前を走る嵐電。
嵐電
1910年に開通して以来、嵐電の名で親しまれる京福電気鉄道。京紫色と呼ばれる車両の色は100周年を機に採用されたイメージカラー。写真は広隆寺の楼門の前を走る嵐電。

感度の高さと素朴さとが交じる加減がちょうどいい嵐電沿線。

 ひらめくガーランドが素朴で可愛らしい龍安寺参道商店街で、全国区の知名度を誇る『キュー』。ロンドン仕込みのチーズケーキとドーナツで、2019年に開店するやいなや、たちまち人気店へと躍り出た店だ。その店を夫と共に切り盛りするのが大木真奈美さん。

「子どもの頃は松尾大社の近くで育ち、小学校高学年になって妙心寺あたりへ引っ越し。今も暮らすのは実家の近くで、日本での生活はほぼ京都の西の方」と大木さん。店のための物件探しは、自宅近くでの可能性も考えてパトロール。「若い頃には気づかなかったけれど、改めて訪れて龍安寺参道商店街を再発見した感じ。この景色が好きかも、店を構えるのもありだと。足を延ばしてみた鳴滝の雰
囲気もよくて。 だから『テキトナ』の佐藤延弘さんは街のよさをわかってる感じがさすが、センスがいいなって。嵐電のある景色を以前より愛おしく感じるのは、ここにお店を持ったからかもしれません」。実は『テキトナ』は以前、「コマド」の名前で店舗を構えていた。その小さな場所を受け継ぎ『キュー』が始まったというつながりがある。「佐藤さんがリノベーションした佇まいの素敵さに惹かれ、この物件に決めたという経緯もあって」と大木さんは振り返る。鳴滝駅へと拠点を移し、アトリエを兼ねたショップとなった『テキトナ』は古いスーパーマーケットを自分たちで改装。新たなオリジナルプロダクトやクラフト、古物、オブジェを次々と提案する。

『キュー』同様、目的地として足を運ぶ人の多い店が嵐電沿線にはもう一軒。古いものを扱う『古い道具』がその店だ。「私たちの龍安寺の商店街にお店を出すことへの迷いを吹き飛ばしてくれた存在」自分だけが気づいた美しさを集めて伝えられたらと、店主の冨永淳さんが営む店は独自の世界観が満ちる。その穏やかな空気は嵐電ののどかさと調和して、これより他の場所は考えられないほど。

『妙心寺』は大方丈(おおほうじょう)と法堂(はっとう)を結ぶ渡り廊下が見どころ。
『妙心寺』は大方丈(おおほうじょう)と法堂(はっとう)を結ぶ渡り廊下が見どころ。
ごく細く手切りされた芋けんぴ・黄金芋は宇多野駅が最寄りの『京甘藷』の看板商品。
ごく細く手切りされた芋けんぴ・黄金芋は宇多野駅が最寄りの『京甘藷』の看板商品。
嵐山駅近くの『嵐山大善 お土産店』。イートインスペースでは、買った寿司をその場で食べられる。
嵐山駅近くの『嵐山大善 お土産店』。イートインスペースでは、買った寿司をその場で食べられる。
プロダクトはもちろん空間もユニークな鳴滝駅の『テキトナ』。写真はドアの取っ手として取り付けられた、塩ビパイプから覗く店内。
プロダクトはもちろん空間もユニークな鳴滝駅の『テキトナ』。写真はドアの取っ手として取り付けられた、塩ビパイプから覗く店内。

 大木さんと話していると、折に触れて西の方が盛り上がってほしいと言う。地元ラブなそのスタンスが素敵だ。「やっぱり新しい店ができるとうれしくて。『京甘藷』は『甘いものの味見してたら、塩っぽいのが食べたいやろ』とお客様の差し入れで知ったお店。ほんのり塩味の塩けんぴが好きです。『マエノタ』もお客様にすすめられたワインの店。1杯いただいたときには、自分のスイッチが切り替えられて、いい気分転換に。ここにこんな店ができたという驚きも」

 嵐山へ向かう嵐山本線はひと際観光客も多いけれど、沿線にはローカルに愛される店が点在しているのも見逃せない。「『嵐山 大善』の鯖寿司の鯖は酢で締めすぎていなくて好み。脂がのっていて身が透明がかっていて、食べる前から間違いないと伝わってきます。家族で奪い合うように食べてしまうほど。近くにこんなお寿司を食べさせてくれる店があるのも、ありがたい」
 
 最後に案内するのは妙心寺。広い境内には46もの塔頭があり、近隣の人々の生活道路の役割も果たす。「小学生の頃から友達と集まっておしゃべりしたり、中高生になると敷地内をランニングしたり。大方丈と法堂をつなぐ渡り廊下が特に好きで、ただゆっくり歩いてみたり、ぼーっと座ったり。お盆は精霊迎え、年末は除夜の鐘。今は自宅から店へと向かう通勤路でもあるんです。車の音も聞こえず、ビルも見えない異空間を通れば、自然と心が整う。帰りが遅くなった日は月を見上げたり、20時に鳴る鐘の音に耳を傾けたり。なによりの贅沢だと感じています」

 ローカルに愛される素朴なスポットが並ぶなか、点在する感度の高い店々。そのギャップが心を打つ嵐電沿線だ。

嵐電といえばのスポットに、新顔が加わる楽しみ。

古い道具
Furui Dogu 等持院・立命館大学衣笠キャンパス前

週に1度、土曜日にだけ開店するのは、その名のとおり古い道具を集めた密やかな店。プリミティブなものから、ゆらめくガラス、素朴な玩具、朽ちかけたものまで。経年による変化を経て、店主・冨永淳さんの心に響いたものだけが並ぶ。

▷京都市北区等持院南町68‒1 ☎なし 土曜のみ11:00~17:00 営業の確認はInstagram@furuidoguで。問い合わせもInstagramのDMで受け付け。

左/穏やかな人柄の冨永さんからは、ものへの愛情とユニークな視点が伝わってくる。右/住まいの一角を改装して店に。
左/穏やかな人柄の冨永さんからは、ものへの愛情とユニークな視点が伝わってくる。右/住まいの一角を改装して店に。

妙心寺
Myoshinji Temple 妙心寺

臨済宗妙心寺派の大本山で日本最大の禅寺も、地元の人々が行き交う憩いの場所。「渡り廊下の下を自転車で潜り抜けるときは、ちょっと頭をかがめて」と大木真奈美さん。注意点がいかにもローカルらしい。

▷京都市右京区花園妙心寺町1 ☎075‒461‒5226 拝観9:00~12:00 13:00~16:00(チケット販売~15:30) 無休 拝観料¥700 拝観場所は天井に雲龍図が描かれた法堂と、大庫裏。

左/梵鐘は国宝に指定されているため、現在は法堂で保管されている。右/本山や塔頭に立ち寄らずとも、境内を歩くだけで京都らしさが感じられる。
左/梵鐘は国宝に指定されているため、現在は法堂で保管されている。右/本山や塔頭に立ち寄らずとも、境内を歩くだけで京都らしさが感じられる。

京甘藷
Kyokansho 宇多野

料理人の店主、家村慶一郎さんがすべて手切りで作る、芋けんぴと大学いもの専門店。「黄金芋が名物。ごく細い芋けんぴは、手切りならではの太さのムラが食感のアクセントになって、あと引く味わいに」と大木さん。

▷京都市右京区鳴滝蓮池町12‒7 ☎075‒461‒5501 10:00~17:00(売り切れ次第終了) 火水休

左/左から茨城産シルクスイートを使ったべっこう芋¥700~は、ベーシックな大学いも。宮崎産宮崎紅を使ったひょうしぎ¥700は、白味噌風味の甘じょっぱい味。右/宮古島の雪塩を使った塩けんぴ¥400。甘さ控えめの黄金芋¥700。
左/左から茨城産シルクスイートを使ったべっこう芋¥700~は、ベーシックな大学いも。宮崎産宮崎紅を使ったひょうしぎ¥700は、白味噌風味の甘じょっぱい味。右/宮古島の雪塩を使った塩けんぴ¥400。甘さ控えめの黄金芋¥700。

テキトナ
TEKITNA 鳴滝

薄く柔らかなモルタルのフロアマット、ポリエチレンフィルムを圧着して作るバッグなど、素材を組み合わせてこれまでになかったものを作るクラフトブランド〈プルプッシュプロダクツ〉のアトリエ兼ショップ。

▷京都市右京区鳴滝嵯峨園町2‒1 ☎075‒462‒5610 13:00~18:00 不定休 現在は月に4回ほどの営業。営業日時はInstagram@tekitnaで確認を。オンラインショップもあり。

左/電車が到着してから向かっても間に合うほど、鳴滝駅は目の前。右/なにもかも尋ねずにはいられない、ユニークな商品が並ぶ。
左/電車が到着してから向かっても間に合うほど、鳴滝駅は目の前。右/なにもかも尋ねずにはいられない、ユニークな商品が並ぶ。

マエノタ
Maenota 帷子ノ辻

長くヨーロッパで暮らした藤田哲弥さん・朋美さん夫妻が開いたのは、角打ち併設のナチュラルワインショップ。フランスを中心にハンガリーやチェコなど東欧までセレクトする。

▷京都市右京区太秦八反田町2‒3 ☎075‒334‒5392 12:00~20:00 火休ほか不定休

左/ポーランドのドムブリスコヴィツェのワインの取り扱いは日本でここだけ。グラス¥1,100。フムスとブロッコリー、かぶのソテーなどおばんざい盛り¥650。チョリソーとサラミ+¥300。右/店先では『ベジノタ』の名で哲弥さんの両親が育てた野菜を販売。
左/ポーランドのドムブリスコヴィツェのワインの取り扱いは日本でここだけ。グラス¥1,100。フムスとブロッコリー、かぶのソテーなどおばんざい盛り¥650。チョリソーとサラミ+¥300。右/店先では『ベジノタ』の名で哲弥さんの両親が育てた野菜を販売。

嵐山大善 お土産店
Arashiyama Daizen Omiyageten 嵐山

京寿司に加え、大阪寿司や江戸前の修業を重ねた横山智進さんが営む京寿司店。「酢飯のおいしさも印象に残ります」と大木さん。嵐電嵐山駅と渡月橋の間にお土産店ができてからは、嵐山散策のお供として一層便利に。

▷京都市右京区嵯峨天龍寺造路町37(本家八ツ橋店内奥) ☎075‒882‒0018 10:45~17:30 火休(祝日の場合営業) 桂川に沿って歩いて10分ほどの場所に『嵐山 大善』がある。

左/本店で仕込んだものを届ける。右/『大善 お土産店』では通常、鯖寿司3 切れ¥1,650の販売。竹皮に包んだ5 切れ¥2,750は事前予約を。
左/本店で仕込んだものを届ける。右/『大善 お土産店』では通常、鯖寿司3 切れ¥1,650の販売。竹皮に包んだ5 切れ¥2,750は事前予約を。

RANDEN MAP嵐電

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市内西部を走る嵐電は、四条大宮駅と嵐山駅を結ぶ嵐山本線と、北野白梅町駅から帷子ノ辻駅までを結ぶ北野線の2 路線からなる。今回紹介するのは、等持院・立命館大学衣笠キャンパス前、妙心寺、宇多野、鳴滝、帷子ノ辻、嵐山の6 つの駅にあるスポット。『京甘藷』や『マエノタ』へは駅から歩いて10分前後の距離。春は鳴滝駅と宇多野駅の間の桜のトンネルも美しい。全線統一運賃で¥250のため、3 回以上乗車するなら、嵐電1 日フリーきっぷ¥700が断然おすすめ。

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大木真奈美『キュー』オーナー

京都市生まれ。英国文化に憧れて留学し、ロンドンのブティック『egg』にて10年勤務。2019年に夫の健太さんと共に『キュー』を開店。▽京都市右京区龍安寺五反田町15 ☎075‒406‒0763 11時〜16時45分入店の予約制 月火金休ほか不定休 予約はHPから。

kewkyoto.com

photo : Yoshiko Watanabe illustration : Junichi Koka text : Mako Yamato

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