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ジュエリーブランド〈SO / OBJECTS〉デザイナー 小坂田裕美さんが語る今月の映画。『鴨川ホルモー』 【極私的・偏愛映画論 vol.123】February 25, 2026

This Month Theme京都を歩くのが楽しくなる。

ジュエリーブランド〈SO / OBJECTS〉デザイナー 小坂田裕美さんが語る今月の映画。『鴨川ホルモー』 【極私的・偏愛映画論 vol.123】

伝統文化を守る精神と、若者たちの新しい文化が混じり合う。

10年住んだ東京を離れ、京都に移り住んでから5年半が経った。それでも未だ新鮮な気持ちになれるほど、京都という街はいろんな顔を持ち、知れば知るほど奥行きを感じさせる面白い場所だ。

三方を山に囲まれ自然がすぐそばにあるこの街は、四季の移ろいの美しさにはっとさせられる。寺社仏閣はあまりにも多く、いまだに巡りきれていない。スーツを着ている人が少ないからか、人々は東京よりも自由にのびのびと生活しているように感じる。そういったことが『鴨川ホルモー』からも受け取ることができた。

それぞれの神社では古くからの行事が大切に受け継がれ、お祭りには日本の美意識の高さが凝縮されているように思う。映画冒頭に登場する下鴨神社の「葵祭」の場面も、とても美しかった。

また、京都は学生の街でもある。鴨川の河川敷で青春を過ごす学生たちの姿を見るたびに、京都で学生時代を送ってみたかったとつくづく思う。物語の中心となる京大生活は、すっかり大人になってしまった私が、普段は踏み入れない領域に迷い込んでしまったようなカオスがある。偏差値の高さも相まってどこかマニアックな空気が漂っていて、セリフの端々からもその独特さが伝わってきて面白い。実際、出町柳や街中にはカオスな居酒屋があるし、京大の研究者や先生と出合うと良い意味でマニアックかつ面白い人ばかりなのだ。

映画の主題である“ホルモー”は、京都に伝わる謎の対戦型競技だが、長く受け継がれてきた伝統文化を守る精神は、やはり京都らしい。そして彼らが送る京都の日常風景はとてもリアルだった。私の拠点から京大までは自転車で10分ほどという距離もあって、物語の舞台がすぐそばにあるような嬉しさもあった。京大の寮、儀式が行われる吉田山神社、祇園祭、大文字の送り火、ホルモーの戦いの場となる鴨川とデルタ、祇園の古い街並み、平安神宮の門を抜けて辿り着く南禅寺、迫力のある金戒光明寺山門。四季を通して京都らしい風景を味わうだけでも十分に楽しめる作品だ。

長く受け継がれてきた伝統文化を守る精神と、洗練された美が今も息づく京都。その一方で、自由な若者たちの新しい文化も絶えず生まれている。その重なり合いこそが、京都という街の面白さと深みを生み続けているのだなと、この映画を観て改めて感じた。

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京都の街の映画はいくつか観たけれど、その中でも京都の街を歩きたくなるような色々な景色を楽しめる映画。少し謎なシュールさもあるけど山田孝之さん、栗山千明さん、荒川良々さんなど、とても豪華なキャストの芝居を楽しんで観ることができる。
Title
『鴨川ホルモー』
Director
本木克英
Screenwriter
経塚丸雄
Year
2009年
Running Time
113分

illustration : Yu Nagaba movie select & text:Hiromi Osakada edit:Seika Yajima


ジュエリーブランド〈SO / OBJECTS〉デザイナー 小坂田裕美

京都を拠点に、”身につけるオブジェ”をテーマにしたジュエリーブランド〈SO / OBJECTS〉のデザイン・制作・運営をしている。2025年にアトリエスペース『SO / SPACE』を京都浄土寺にオープン。

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