MOVIE 私の好きな、あの映画。
『恋はデジャ・ブ』選・文/塩川いづみ(イラストレーター) / October 20, 2016
This Month Themeチャーミングなキャラクターに出合える。
塩川いづみ(イラストレーター)
じわじわくる中年男性のチャーム。
彼の名前はビル・マーレイ。チャーミングなキャラクターと言われて真っ先に頭に浮かんだのが彼、劇中の役名ではなく俳優ビル・マーレイなのでした。
私と同世代の方がみていたらゴーストバスターズの博士役、近年だとロストイントランスレーションが印象的かもしれません。一貫して飄々として、どこか人を小馬鹿にして諦観しているような演技(演じているか素なのかわからないですが)、そんな彼の出演作の中で内容ともに好きな『Groundhog day』。
彼が演じる高慢で鼻持ちならない主人公フィルが、退屈な田舎町の祭事に取材に行き、そこでどういう訳か同じ一日のループから抜け出せなくなってしまうというストーリー。朝起きると昨日と同じ一日が始まる。どんな罪を犯しても、たとえ絶望して車で崖から落ちても翌日6時にはリセットされてまた同じ日が始まってしまう。共有したい良い思い出も翌日にはフィル以外誰も覚えていない。コメディタッチで描かれてはいるものの、死は選べないし明日も永遠に来ない なんて、考えたら本当に恐ろしい話!
しかしそんな悲観的な状況も、画面に彼がいると牧歌的に見えてしまうのが不思議。絶望したと思ったら、この状況を前向きに利用して好きな女性をものにしようと奮闘するフィルが可愛い。台詞だけでなくちょっとした仕草や佇まいにも感じるユーモアがこちらに安心感をもたらせてくれるのは彼の真骨頂ではないかしら。そしてストーリーは後半から哲学的な意味合いをおびて、一日一日を大事に過ごすことにフィルが気づき始めたところから状況が好転していく……。
人生で一番美しい頃合いの俳優たち、磨き抜かれた美を備えた女優たち、チャーミングのプロフェッショナルがごまんといる映画の世界で、この一見疲れたおじさんに惹かれてしまうのはどうしてだろう。理屈じゃなく、真顔で腰掛けているだけで じわじわくる中年男性のチャームこそ本物なのかもしれない。