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『Forager』代表、フローリストchi-ko.さんが語る今月の映画。『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』【極私的・偏愛映画論 vol.114】May 25, 2025

This Month Theme仕事のスタンスに惹かれる。

『Forager』代表、フローリストchi-ko.さんが語る今月の映画。『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』【極私的・偏愛映画論 vol.114】

鋭さと無邪気さと大胆さが魅力の、天性のファッショニスタ。

「野心や大それた夢はないけど、いまできる仕事をして自分を活かしていきたい。そして佳く生きよう」。ライフステージの変化があって、大きな目標も無いまま流れるようにフリーランスのフローリストとしての道を決めた頃、こんなふうに仕事と人生について考えていました。

「佳く生きよう」という言葉はお店を持った頃に知り合った方が使っていて、なんとなく心に留まり、自分も意識するように。自分には師匠がいないので、この言葉を意識することで判断の軸になったり、毎日自分の何かを高めていけたりするような感覚がありました。そんなふうに言葉が心に残る、自分を導いてくれる金言ばかりの映画に出会ったのは、独立してから数年後です。

『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』はダイアナの生前のインタビューをメインに彼女と仕事をしたモデルやクリエイター、息子たちのコメントを織り交ぜながら、生い立ちから亡くなるまでの独自の思考と秘められた私生活、仕事の功績を描いたドキュメンタリー作品です。とどのつまり、この世界でわたしたちが活力をもって生きるには? ということを文化的かつ大胆に提案していたダイアナは、インタビューの返しのほとんどが名言といっても過言ではなく、確信に満ちた鋭さと無邪気さ、大胆さが混在したいい顔をしていて目が離せません。どうしたらこんな人になれるんだろう? と興味をそそられ、あっという間に観終えてしまいました。

ダイアナは劇中で語る。

「肉体的な生き物だもの生きていくには体の動きや気分を大事にしないと」

「人は夢や想像の世界を通してしか生きられない
それが唯一私たちの知る現実よ」

「人間の生き方の問題よ 新しい服を着ているだけではダメ
その服で いかに生きるかなの」

「いい人生は1つだけよ 自ら望み 自ら作る」

「目は旅をするべきなの」

ダイアナは編集者で、晩年はキュレーターとして活動した。制作チームに的確な指示をして、人を動かしていく立場にあり、感覚的なことを根源的な部分から言語化していくプロフェッショナルでもありました。彼女の言葉は時代を超えて響いてくるものがあり、わかるものもあればわからないものもありました。

本編の最後はダイアナがチャールズ・リンドバーグの飛行機に乗り、手を振って去っていくアニメーションで締めくくられます。わたしもこんなふうに軽快にこの世を去れるように、花の仕事を通してこの世界を理解していきたいと改めて思ったのでした。

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通称“地獄の庭 ”と呼ばれるダイアナのリビングルーム。インテリアや花の様子もひそかな見どころのひとつです。大胆でユニーク、それでいて上品で風通しの良いスタイルは永遠に憧れです。
Title
『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』
Director
リサ・インモルディーノ・ヴリーランド
Screenwriter
リサ・インモルディーノ・ヴリーランド
Year
2012年
Running Time
86分

illustration : Yu Nagaba movie select & text:chi-ko. edit:Seika Yajima


『Forager』代表、フローリスト chi-ko.

『Forager』代表、フローリストchi-ko.さんが語る今月の映画。『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』【極私的・偏愛映画論 vol.114】
季節のひかりと花の作用にフォーカスした花屋として東京・渋谷区西原で『Forager』を運営。ささやかだけれど魅力的な花々を中心に、ジェンダーフリーな花の景色を提案している。都内のカフェやショップへの生け込み、ポップアップイベントでの生花の販売や、撮影用のスタイリングなど幅広く活動している。

instagram.com/forager_nishihara_tokyo

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