INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
雰囲気を最大限に生かすリノベーション。
建築家・宮田一彦さんの古くて、くつろげる住まい。February 12, 2022
2022年1月20日発売の『&Premium』の特集は「居心地のいい部屋に、整える」。狭いけれど落ち着く、古いからこそ趣がある、物が多くても、収納が無くてもときめく……。一見するとマイナスに思える要素も、アイデア次第でプラスに変えられることを、素敵な住まい手の皆さんに教わりました。ここでは、建築家の宮田一彦さんの古くてもくつろげる住まいを紹介します。
大切にされてきた痕跡があるのが古いものの良さ。
古民家再生に特化した建築家・宮田一彦さん。自宅兼アトリエもまた、築60年の日本家屋をリノベーションしたものだ。北鎌倉駅から徒歩10分ほどの再建築不可の物件を約10年前に購入。一家5人で暮らしている。
「昔から流行や最新といったものには興味がなくて。家だけでなく、どんなジャンルでもそうですが、古いものというのは、いろいろな人が大切にしてきたからこそ残っている。そこに魅力を感じます」
そうやって愛されてきたものをいかに残していくか。そこが建築家としての腕の見せどころでもある。
「リノベーションする際に心がけているのは、昔の面影や気配をなるべく壊さず受け継ぐようにすること。でも、一度すべて取り払って骨組みだけにしているんです。全部土壁だったのを土を落として石膏ボードを張って断熱材を入れていたり。この家から引き継いでいるのは主に雰囲気。屋根や外壁も替えたし、建具も障子など部分的に残したものもありますが、古道具店から調達したものも多いです。でも、1階の天井を抜いたら立派な梁が出てきた。これは見せたいので、あえて抜いたままにしました。天井が2階の床になるので足音も声も聞こえるのですが、家族だからいいかな、など、ちょっと具合は悪いけれど、それ以上に価値があれば活用する。そのバランスにも気を使っています」
現代の家では醸せない空気感は損なわず、単なる復元ではなく今の生活に合うよう作り替える。それが、唯一無二ともいえるオリジナリティにつながっている。
また、壁はロウ引きした上に柿渋を塗った和紙張り、コンクリートブロック、漆喰、土壁、モルタル、ラワン合板張りなど様々な仕上げに。
「ショールーム的な役割もあるのですが、いろいろなものがミックスされて、なおかつ統一されているスタイルが好きなんです。吉村順三さんや前川國男さんら1950年代の若い建築家が、何か面白いことはできないかと挑戦していた頃の建築にも影響を受けています」
建築の参考だけでなく、リビングの家具も北欧やアメリカなどのミッドセンチュリー期のもので統一。
「家具はこの家と同年代のものが多いですね。意図したわけではないのですが、やはりその時代の雰囲気が
好きなのだと思います」
さらには家具のみならず、アトリエにはフランスの時計や機械式カメラ、照明、おもちゃに至るまで、ヴィンテージ品がひしめき合っている。
「飽きたら売って、また別のものを買っての繰り返しです。古いものは好きだけど、一つのスタイルに凝り固まるのも面白くない。新陳代謝はしていきたいと思っています」
宮田一彦 建築家
1966年生まれ。山下和正建築研究所を経て、’97年〈宮田一彦アトリエ〉を設立。2010年より鎌倉に居住。古民家リノベーションを中心とした設計を行う。
photo : Manami Takahashi illustration : Shinji Abe (karera) edit & text : Wakako Miyake