MUSIC 心地よい音楽を。
今月の選曲家 ceroJuly 28, 2017
July.28 – August.03, 2017
Saturday Morning

土曜の朝とは金曜の夜の続きである。は? 何? とんち? と言うなかれ。週末のパーティーのことです、オール明けの。もう何年前だろう、江ノ島の海沿い、ビル4階にある『オッパーラ』というクラブ(兼カフェ兼ライブハウス)でVIDEOTAPEMUSICの企画があった。覚えているのは、音楽ライターであり、ワルい先輩であり、友達でもある磯部涼がDJでいた。その日彼はテキーラのショットをバーカウンターの周辺にいる人にやたら奢ってくれた。朝になってソファで寝落ちした客が日に照らされる頃、磯部さんのDJが始まる。1曲目。あ、「シルヴィアを聴きながら」だ、と思う間もなくイントロのドラムブレイクがループされる。泥酔した磯部さんはなぜかターンテーブルを見て不思議そうな、赤ん坊のような顔をしている。やがてループが解かれ、シンセベースのベンドダウンを合図に、ホーンが入る。そしてテキーラでグワングワンになった頭がハイになる。フロアで踊っているのは数人。忘れがたい瞬間。これを聞かずにネオシティポップとか渋谷系リヴァイバルとか言って喜んでるヤツは、優しく言ってあげるが、まあ残念過ぎるね。(荒内佑)
アルバム『Abandoned Songs From The Limbo』収録。
アルバム『Abandoned Songs From The Limbo』収録。
Sunday Night

30歳を過ぎて変わったこと。例えば①ある日突然フェルメールが好きになった。日当りの悪い我が家に射し込む光はフェルメールの“あの画面”をたまに思い出させる。②10年以上なんとも思ってなかった曲に感動した。テレビを見ていたら復帰した絢香さんが「三日月」を歌っていて、曲のテーマである遠距離恋愛と楽曲構造が似ていることに気付いたのだ。③苦手だった魚介類がだいたい食えるようになった。そして④こういう渋くて美しいソウルナンバーが骨身に沁みるようになった。総括すると⑤「淡いもの」の良さが分かるようになった。結論→窓から射し込むフェルメールの光、月と魚、をこの曲は強く想起させる。つまり三十路以降の趣味が全てある。そしてこれらの要素がハマるのは日曜の夜しかないと言えるだろう。理由は聞かないで欲しい。(荒内佑)
アルバム『Cloak』収録。
アルバム『Cloak』収録。
ミュージシャン cero

髙城晶平(Vo、Gu、Flu)、荒内佑(Key)、橋本翼(Gu)。Contemporary Exotica Rock Orchestra 略して「cero」(セロ)として、2010年にデビューを果たす。全員が楽曲を制作するオルタナティブなスタイルと楽曲の嗜好性の幅広さ、ライブ活動が多くのリスナーに支持されている。