MUSIC 心地よい音楽を。
心に寄り添える、音楽を差し出す。札幌・北3条西『chiba house』。November 25, 2024
カルチャーのあるカフェや喫茶店は、音楽との思いがけない出合いを手渡してくれるかけがえのない存在です。2024年11月20日発売の特集「カフェと音楽」では、全国の話題店によるアルバムリストが登場。ここでは、札幌・北3条西『chiba house』を紹介します。
心に寄り添える、音楽を差し出す。
余白のある落ち着いた空間に、耳に心地よく触れるボリュームで静かな音楽が流れる。真空管アンプを通って、ヴィンテージスピーカーから鳴る音は、音楽の個性に呼応した”輪郭”が立った響き。ピアノ曲は鍵盤の一音一音がじんわり、やわらかに。ジャズは密度の高い演奏が、かっちりとクリアに。シンガー・ソングライターの抒情的なギターに乗せた歌は、より心の奥底に触れてくる。店主・千葉幸平さんによる音響が生きる選曲は“単なるBGM”に収まらない。彼の心とからだを通過した音楽が期せずして、心のやわらかい部分に届いてしまうのだ。店のオープンはコロナ禍の2020年。「世の中も、自分の心も沈んでいて街の風景が静かなときに、寄り添ってくれるのが音楽だった」と回想する。そのときの想いを大切に、誰かの心を温める音楽を、今日も祈るようにそっと、差し出している。
『chiba house』オーナー、千葉幸平が選ぶ、店を形づくるレコード15枚。
『スティルライフ』haruka nakamura
自邸のアップライトピアノのハンマーと弦の間に自作の布を貼り、音色を調律。控えめな響きが耳をそっと撫でる。「隣で寄り添ってくれる温かな音楽」
『Marquês, 256.』Zé Ibarra
ブラジルの次世代音楽シーンを牽引するゼ・イバーハのソロ作。伴奏はギターとピアノのみ。歌声に郷愁が感じられる。「かけるたびに音が美しくて、いつもハッとします」
『All These Years』Phil Cook
ジャンルを横断し活動を続けるフィル・クックが、100年前のスタインウェイのピアノを使用して録音。「家族や恋人への感謝を込めて作られた、極めて個人的な作品」
『himorogi』ironomi
ピアニストの柳平淳哉、十七絃箏とプログラミングを担う磯部優によるデュオ。日本の神話や自然との関わりを探求した10作目。「しっとりした雨の日に聴きたくなります」
『Let The Moon Be A Planet』Steve Gunn & David Moore
ギターのスティーヴ、ピアノのデヴィッドが”対話”したアンビエントフォーク。「自然豊かな環境で制作された情景が浮かぶ一作」
『Before The Blessing』Yoshiharu Takeda
全楽器を自身で演奏。プログラミングと多重録音で、幻想的なサウンドスケープを構築した2作目。「時が止まったような静謐で特別な時間が流れます」
『Guitarscape』Hirofumi Nakamura
北海道出身のギタリストによる初のソロ作。生活への確かな眼差しが感じられるフレージングに、心が整う。「明日への活力が湧き、背中を押してもらえます」
『Midnight Shelter』Sachal Vasandani, Romain Collin
歌とピアノで綴られた「物語」のあるロマンティックな調べ。人を想う切なさが、揺らいでいる。「キャンドルの明かりのように優しい作品」
『Just Another Diamond Day』Vashti Bunyan
ヴァシュティがパートナーと馬車で旅をしたときの”時間”を追想させる牧歌的なフォークソング。「オープン初日にかけた思い出深い一枚です」
『Spielt Eigene Kompositionen』Emahoy Tsege Mariam Gebru
エチオピアの孤児院に資金を供給するために制作された。「リズミカルなピアノが好き。流している間、時空が揺れる感覚があります」
『MMMMH』Masako Ohta, Matthias Lindermayr
ピアニストの大田麻佐子とトランペット奏者のマティアス・リンダーマイヤーによる浮遊感漂う音色が美しい。「心を鎮める魔法のような音楽」
『At First Light』Ralph Towner
〈ECM〉を代表するギタリストの最新ソロ作。「前衛的な音楽活動を続けてきた彼が、彫刻を彫るようにギターに向き合った”アルチザン”としての魅力が光る」
『SpiderBeetleBee』Bill MacKay, Ryley Walker
友人同士、会話を楽しむように音づくりに没頭して制作された親密な作品。「心地よい風のようなギターの音色は、天気の良い日の定番です」
『Two Lands』Meadow & Gen Tanabe
二人の音楽家が暮らす自然豊かな土地の丘や山、空気感をモチーフに季節の移ろいを丁寧に紡いだ。「静かな夕暮れ時にかけると、美しい時間が流れます」
『HoSoNoVa』細野晴臣
映画『ラモナ』の主題歌をはじめとした20世紀のポップスのカバーやオリジナル曲を収録。「店名の由来は『HOSONO HOUSE』から。深煎りブレンドの名は『ラモナ』に」
『chiba house』札幌・北3条西
札幌市中央区北3西12−2−1 札幌パークマンション1F ☎011−206−8853 12:00〜21:00(20:00LO) 月休ほか不定休 大通公園から徒歩約10分。散歩後に訪れてみても。
photo : Naoya Matsumoto edit & text : Seika Yajima