BOOK 本と言葉。
詩人の文月悠光さんが紹介する、朝にくちずさみたい詩。June 10, 2025
朝の日差しに包まれながら読む本は、今日のはじまりを祝福するものでありたい。ここでは、くちずさみたくなる詩、美しい風景が綴られた小説、思わず舌鼓を打ちたくなる朝食が描かれた本を、それぞれの選者が紹介する。今回は、詩人・文月悠光さんが、「朝にくちずさみたい詩」を3つ紹介。幸せでも辛くても朝は平等にやってくる。かけがえのない一日を象徴する一文とともに、豊かな本の世界へ。
&Premium114号「朝を楽しむための28のこと」より、特別にWEBで紹介します。
『小池昌代詩集』 著 小池昌代 (思潮社)

それはきょうも 生きていくことの合図なんだよ
「こぼさずに」より
小池昌代さんの詩は柔らかい言葉の中に、必ず「なんだろう」と引き込まれるフレーズがあって、読むことのカタルシスを味わえます。引用した箇所は、眠っている「こどもたち」に対して温かく呼びかける場面。自分も「生きていくことの合図」を誰かと確かめ合えた気がして、守られているような感覚に包まれます。詩の中で「こどもたち」は、水の精のような愛らしくも不思議な存在として描かれる。水の波紋のような不思議な余韻が残る詩です。
『週末のアルペジオ』 著 三角みづ紀 (春陽堂書店)

「午前四時」より
待ち遠しくない朝もありますよね。朝だからって無理に前向きにならなくていい。朝を拒んだり、朝にぼうっと過ごしてみてもいい。その正直さにぐっときました。三角みづ紀さんの新詩集『週末のアルペジオ』は、12か月の景色を詩で描き出します。潔い飾らない言葉選びが印象的で、シンプルだからこそまっすぐに言葉が届き、何度でも読み込みたくなる。風の音が聞こえてくるような軽やかな詩集です。この春は、この本と一緒に色々な場所へ出かけようと思います。
『たましいの移動』 著 國松絵梨 (七月堂)

「朝をぬける」より
朝の光は等しく降り注ぐ。カーテンを開け放つ度、玄関を出る度にそのことを実感します。まさに「新しく思い出す」のです。朝に対する新鮮な感覚を喚起すると共に、詩句の畳みかけるようなリズムにも惹かれました。この詩の語り手が、どこか人を超えた存在に感じるのも魅力的。生きものたちが夜を抜け出し、朝を迎える様をイメージしました。作者の國松絵梨さんは、詩集『たましいの移動』で中原中也賞を受賞された注目の詩人。私もとても好きな詩集です。
文月悠光 Yumi Fuzuki詩人
2008年、16歳で現代詩手帖賞を受賞。第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社/ちくま文庫)で中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を受賞。2022年に6年ぶりの新詩集『パラレルワールドのようなもの』(思潮社)を刊行。
photo : Masanori Kaneshita edit : Wakako Miyake