Art

July 09, 2022 河内タカがナビゲート。
誰もが楽しめる、パブリックアートの魅力。

美術館に収まらず、自由に観られる公共の場所にあって、誰でも無料で触れることができる有名作家によるパブリックアート。2022年6月発売の特集「心を揺さぶる、アートの力。」に掲載したパブリックアートの一部を紹介。本サイトの連載でもおなじみの美術ライター・河内タカが選んだ作品とは。

太陽の塔 パブリックアート

有機的なかたちのモニュメントが、 人々の希望を表すシンボルに。

岡本太郎 Taro Okamoto
太陽の塔
1970年/万博記念公園
 

1970年の大阪万博で〝人類の進歩と調和〞を表現するテーマ館の一部として建造。「東京オリンピックに次ぐ、戦後日本の大復興の第2段階という位置づけだった大阪万博。鉄やアルミなどの工業製品を使ったモダニズム建築が立ち並ぶなか、建築家の丹下健三が設計した大屋根を突き破って、人が手づくりしたような約70mの高さの塔がドカンと建てられた。これを残したいという願いが集積した遺産として、本当の意味で復興のシンボルになったのではないかと思います」。内部観覧可能。▷大阪府吹田市千里万博公園

 
パブリックアート 上野駅 自由 猪熊弦一郎

北の故郷を想う旅人を、 迎え見送る、和やかな群像画。

猪熊弦一郎 Genichiro Inokuma
自由
1951年/JR上野駅中央改札口
 

人通りの多い上野駅構内に、壁画として設置。作者がフランスに遊学後、NYに移住する前に描いた貴重な具象画。「北日本の観光や風物を主題に、スキーをする人や馬、犬など、北国のモチーフが描かれています。当時の上野駅は、東北や北陸の人が出稼ぎに来る玄関口。故郷に家族を残して行き来する人のための応援歌のように、観る人の気持ちを沸き立たせてくれます。戦後にこれを描いた作者は、日本の風土に密着したピースフルな《ゲルニカ》を意識したのかもしれません」▷東京都台東区上野7丁目

 
パブリックアート 今井兼次 フェニックスモザイク

不要になった茶碗や急須が、 モザイク壁画として再生。

今井兼次 Kenji Imai
1961年/東洋学園大学
フェニックス・モザイク 岩間がくれの菫(すみれ)花
 

モダニズムデザインを代表する建築家・今井兼次が、当時の学園のシンボルとして考案。5作品あったうち、唯一この壁画だけが現存する。「割れた茶碗や磁器を集め、作者の指示の下で一般の人たちが参加し、ガウディ建築からの影響を、日本ならではのモザイク壁画へと昇華。〝岩間がくれの菫花〞をテーマに描かれた自然のなかから湧き上がる太陽と記念塔は、戦後復興の希望の象徴のようにも見えます。近くで見ると、急須や湯呑みの破片などいろいろなかたちが見えてカッコいい」▷東京都文京区本郷1‒26‒3

 

作品の背景にある物語を知って観ると、より面白くなる。

 

 美術館で展示されるアート作品と、パブリックアートは何が違うのか。前者は自分で能動的に動かないと観られないアートである一方で、後者は誰にとっても平等な場所に置かれていて、あえて観ることを強要しません。作品に込められたメッセージは強烈であっても、観る人がそれぞれに考えてくれればいいというのが、パブリックアートの醍醐味なのではないかと思います。空気のような存在であり続けながら、常にそこにあって、何十年と残ることもある。だから20代で触れた作品に、また20年後に出合う可能性だってあります。昔は理解できなかった作品が改めて観ると新鮮に映ったり、懐かしさを感じたり、新しい発見や驚きがあるというのも面白みではないでしょうか。
 パブリックアートの象徴ともいえる《太陽の塔》は、1970年に開催された大阪万博の会場に建てられ、終われば取り壊される予定でした。これが残されたのは、戦後日本の復興の希望として、人々の情熱や愛が集結したからこその奇跡ではないでしょうか。規格外の規模だったため、その場にそのままの姿で残された20世紀の遺産という意味でも、ワンアンドオンリーな作品だと思います。
 もし、人類がいなくなって、次の人間に代わる生物が《太陽の塔》を観たらどう思うでしょうか。人類という生き物がいたんだなと、僕らが古代の洞窟壁画を眺めて考えるような気持ちになるのかもしれません。美術館のようにキャプションや解説を読みながら観るのではないダイナミックなアートは、有無を言わさずに人の心を鷲掴みする力があります。そしてそのメッセージは、十人いたら十通りの想像性に委ねられるものです。有名なアーティストたちがつくった優れた作品が、公共の場にあり無料で観られるのは、とても贅沢なこと。毎日何げなく通り過ぎていた作品も、作品の背景にあるストーリーを知ってから観ると、俄然面白く感じられるのではないかと思います。

 

河内タカ Taka Kawachi

美術ライター。長年にわたってNYを拠点に展覧会のキュレーションや写真集などの編集を手がけ、2011年に帰国。著書に『アートの入り口』『芸術家たち1&2』など。『&Premium.jp』で「河内タカの素顔の芸術家たち」も連載中。

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photo : Yayoi Arimoto text : Asuka Ochi

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