FOOD 食の楽しみ。

ゆっくり座って、あんこ三昧。名手の京の和菓子を求めて。vol.2June 16, 2025

碁盤の目状に連なる道を歩く。風情ある町家を見つけたと思えば、人だかりのできる新店が隣り合う。京都はいつ訪れても発見に満ちた街。だからこそ、好奇心に任せ、気ままに巡るのが面白いと思うのです。現地在住のガイドが20のテーマで案内する、古都のふだんの表情。ひとり、満喫しませんか。

京都の和菓子店を知り尽くした、『京都酢屋 千本銘木商会』銘木師・中川典子さんが案内人となり、おいしいあんこが味わえる8軒を、&Premium特別編集「ひとりでも、京都へ」より、WEBで特別に公開します。vol.1はこちらから。

『茶寮 センタマ』_千本今出川

ゆっくり座って、あんこ三昧。名手の京の和菓子を求めて。vol.2
”かける”わらび餅¥880(来シーズンより金額変更の可能性あり)。少し柔らかめに仕上げた『千本玉壽軒』のこしあんを器に置き、目の前でわらび粉を練って、かけて仕上げる。
ゆっくり座って、あんこ三昧。名手の京の和菓子を求めて。vol.2
昭和13年に創業した『千本玉壽軒』。茶寮は、そこから右手に一軒はさんだ隣の2階に。

中川さんがよく行っているのが、上菓子の老舗『千本玉壽軒』が2020年に構えた茶寮。「目の前でお菓子を作ってくれるカウンターが醍醐味で、春先は”かける”わらび餅目当てで通っています」。上菓子のわらび餅の、いわばデザート版。上品なこしあんに、出来たての温かいわらび餅がかかる工夫に富んだ一杯はほかにない。

住所:京都市上京区上善寺町93
電話:075−461−5747
営業時間:10:00(菓子教室のときは12:00)〜16:00LO 水休 上生菓子と抹茶のセットも。

『都松庵』_堀川三条

ゆっくり座って、あんこ三昧。名手の京の和菓子を求めて。vol.2
あんこの食べ比べ 丸久小山園 ほうじ茶付き¥1,100。北海道十勝産エリモ小豆の粒あん、季節のいちごあん、丹波大納言の粒あん、白いんげん豆こしあん、北海道シュマリ小豆こしあん、の5種。
ゆっくり座って、あんこ三昧。名手の京の和菓子を求めて。vol.2
ショップは18:30まで。あんこを使ったシュークリームも人気。

昭和25年に創業した京のあんこ屋『都製餡』から生まれた初のショップ併設カフェ。霊峰・鈴鹿山系の伏流水に恵まれた滋賀に工房を置き、炊いた多彩なあんこが、さまざまな形で楽しめる。「製餡所の中でも、抜群においしい。コーヒーやフルーツなど、強い素材と合わせていても、きちんとあんこの味がするのが、素晴らしいところ」

住所:京都市中京区堀川三条下ル下八文字町709−1F
電話:075−811−9288
営業時間:10:00〜17:00LO(パンケーキは16:30LO) 第1水、または第2水休

『甘党茶屋梅園 河原町店』_河原町六角

ゆっくり座って、あんこ三昧。名手の京の和菓子を求めて。vol.2
みたらし団子とあんみつ黒みつ添え¥1,080。白寒天にはあえて甘味をつけず、あんこと黒蜜の甘味で。黒糖のわらび餅も入る。
ゆっくり座って、あんこ三昧。名手の京の和菓子を求めて。vol.2
河原町通に面したこの場で創業。近隣に娯楽施設があり、遊んだ後にちょっと食べられるよう、みたらし団子を始めたという。

中川さんが、子どもの頃、祖母とよく訪れていたというのが、昭和2年創業のこの店。みたらし団子の店として出発し、2代目のときに甘味処になったという。「余計なフルーツやアイスを入れず、あんこと寒天、えんどう豆、白玉という昔ながらの組み合わせで勝負しているので、飽きがこない。必ず、甘じょっぱいみたらしと」

住所:京都市中京区河原町三条下る山崎町234−4
電話:075−221−5017
営業時間:10:30~19:20LO 無休 冬季限定のあわぜんざいも中川さんおすすめ。

『菓舗 歩』_壬生

ゆっくり座って、あんこ三昧。名手の京の和菓子を求めて。vol.2
よもぎ団子1本¥120。よもぎの色が鮮やかなお団子には、黒糖あんがのる。焼き色の濃い生地に、やわらかめに炊いた大納言小豆の粒あんをはさんだ、しっとりめのどら焼きも、中川さんのおすすめ。季節の上菓子も揃う。
ゆっくり座って、あんこ三昧。名手の京の和菓子を求めて。vol.2
こんなところに?という路地奥に。

京都で400余年の歴史を誇る『亀屋清永』で15年間、研鑽を積んだ店主田中望さんが、修業先の屋号にちなみ、”亀のように一歩ずつ歩んでいこう”と名付けて構えた。「お年寄りや子どもたちが喜んでくれるような和菓子を作りたい、という思いが伝わってくる。店先で炙って、あんこをのせるよもぎ団子は、幸せな気持ちになります」

住所:京都市中京区壬生高樋町65−27
営業時間:11:00~17:00 不定休 詳細はInstagramにて。

上菓子屋さんとおまん屋さん、 あんこが違うのを知ってますか。

“来年のお菓子は、どないさしてもらいましょか”。京都に古くから続く家には、いまでも出入りの和菓子屋さんがあって、年の瀬になると、菓子箱に正月用の上菓子をいくつも詰め、御用聞きにやってくるのだそうだ。干支の菓子に松のきんとん、紅白の薯蕷饅頭……。小さい頃から、祖母が注文する横で、和菓子を愛でて育ったという中川典子さんは、いまでも「毎日食べても飽きないのが不思議なくらい」の和菓子好き、あんこ好きである。そんな京都の和菓子店を知り尽くした、最強のあんこ案内人に聞いてみた。

「京都には、大きく分けて3つの和菓子屋さんがあります。ひとつは、社寺やお茶席などに使われる生菓子や干菓子を作っている上菓子屋さん。今回ご紹介した『御菓子司 聚洸』と、『千本玉壽軒』(今回はカフェの『茶寮 センタマ』を紹介)は、その代表格です。もうひとつが、普段食べるお饅頭や豆餅などを作っているおまん屋さんで、『七条ふたば』や『幸福堂』がそれにあたります。そして、白餅をメインにしながら、小豆を炊くのがうまい『たから餅老舗』などのお餅屋さんです。今回は、なんといっても“あんこを巡る旅”ですから、自分のところでちゃんと小豆から炊いている、あんこの名手のような店ばかりを選んでいます。ただ、同じ名手でも、上菓子屋さんと、おまん屋さんやお餅屋さん、『梅園』などの甘味処の炊くあんこは、味に違いがあります。前者はこしあんに代表される清らかな甘味で、後者は雑味のあるおおらかな甘味とでもいいますか。あんこ巡りでは、その違いを知るのも、面白いと思います」

そのほかにもうひとつ、あんこを作っているところがある。それが、さまざまな店のあんこを手がける製餡所。『都松庵』は、都製餡という製餡所から生まれた。

「京都のあんこを語るうえではずせない製餡所で、あんこへのこだわりがすごい。いろいろな種類のあんこを食べ比べできるのは、ここならではだと思います」

味わってほしいのは、おいしさだけにあらず。店の風情を知るのもまた、あんこを巡る楽しみのひとつ。

「上菓子屋さんなら、暖簾や主人が見立てた店の設え、店先の打ち水、接客の所作など、京都の情緒を前面に出していて、京都のおもてなし文化というのはこれなのか、と実感できると思います。一方で、庶民的なおまん屋さんには、おまん屋さんならではのせわしさがあり、これがまたいい。接客もフレンドリー。『幸福堂』などに行くと、おじいちゃん、おばあちゃんが和菓子を買っている横で、お店の方が忙しく働いている様子が見られると思います。また、新しい店ですけれど、“こんなところに?”という路地奥にある『菓舗 歩』も、京都らしい和菓子屋さん。ご夫婦で営まれている職住一致の店で、和菓子を選んでいると、奥から子どもの元気な声が聞こえてきて、昔の京都の和菓子屋さんはこうだったよなぁと懐かしさを感じます」

ここで紹介した店に限らず、和菓子店を訪れるなら、ぜひ、本店に足を運んで、京都ならではの佇まいを味わってほしいとも。最後に、あんこがおいしいおまん屋さんを見分ける、とっておきのコツを。

「京都のおまん屋さんやお餅屋さんに行くと、大抵、お赤飯を売っています。昔は、上菓子は、蒸菓子と書いたくらい、和菓子は蒸す技術が肝心。お赤飯は、もち米、小豆選びと蒸し加減ですから、お赤飯がおいしい店は、あんこがおいしい。ここで紹介した『七条ふたば』『たから餅老舗』『幸福堂』などには、お赤飯が売っていますから、豆餅やおはぎと一緒に手に取って、味わってみてください」

ゆっくり座って、あんこ三昧。名手の京の和菓子を求めて。vol.2

中川典子 Noriko Nakagawa京都酢屋 千本銘木商会 銘木師

京都生まれの京都育ち。実家は、老舗和菓子店の大看板なども手がけてきたという、江戸時代から続く銘木商。女性初の銘木師として、町家の再生や家具・建具製作に携わる傍ら、和菓子好きが高じて、和菓子と建築を楽しむ「京都・和菓子の会」を主宰している。京菓子の歴史にも詳しい。

photo : Kunihiro Fukumori text : Yuko Saito

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