FOOD 食の楽しみ。

店の風情も味わえるあんこ菓子を。名手の京の和菓子を求めて。vol.1June 15, 2025

碁盤の目状に連なる道を歩く。風情ある町家を見つけたと思えば、人だかりのできる新店が隣り合う。京都はいつ訪れても発見に満ちた街。だからこそ、好奇心に任せ、気ままに巡るのが面白いと思うのです。現地在住のガイドが20のテーマで案内する、古都のふだんの表情。ひとり、満喫しませんか。

京都の和菓子店を知り尽くした、『京都酢屋 千本銘木商会』銘木師・中川典子さんが案内人となり、おいしいあんこが味わえる8軒を、&Premium特別編集「ひとりでも、京都へ」より、WEBで特別に公開します。vol.2はこちらから。

『御菓子司 聚洸』_西陣

店の風情も味わえるあんこ菓子を。小豆からあんこを炊く、名手の和菓子を求めて。vol.1
わらび¥430。渋切りを1回にとどめて小豆の風味を生かし、非常に細かい目でこし、なめらかに仕上げたこしあん。これを3種のわらび粉で練った餅で包んでいる。1週間前の予約が確実。
店の風情も味わえるあんこ菓子を。小豆からあんこを炊く、名手の和菓子を求めて。vol.1
蜜漬けした大納言小豆をつぶさないようヘラは使わず、鍋をゆすりながら、3日がかりで炊くという粒あん。
店の風情も味わえるあんこ菓子を。小豆からあんこを炊く、名手の和菓子を求めて。vol.1
「お客さんが喜んでくれる菓子を作るだけ」という店主の髙家裕典さん。
店の風情も味わえるあんこ菓子を。小豆からあんこを炊く、名手の和菓子を求めて。vol.1
『聚洸』の2月半ばの上菓子”此の花”。美しい藤紫色に炊き上げたこしあんを、備中白小豆のみで炊いた白あんとつくね芋を合わせたきんとんで包み色づけ。紅梅と先駆けの白梅を表現。

「上菓子屋のあんことしての代表格」というのが、名古屋の名店『芳光』や、実家である西陣『塩芳軒』で修業を積んだ髙家裕典さんが、2005年に構えた店。「定番のわらびは修業先のお菓子ですが、砂糖やわらび粉の加減を自分なりに変えているのか、食べるたびにおいしくなっています」。美しさも大切だが、食べておいしい菓子をと、従来の製法にとらわれることなく、菓子作りに励んでいる。

住所:京都市上京区筋違橋町548−4
電話:075−431−2800
営業時間:10:00~17:00 水日祝休

『七条ふたば』_七条大宮

店の風情も味わえるあんこ菓子を。小豆からあんこを炊く、名手の和菓子を求めて。vol.1
多い日には300個近く出るという、ふたばの豆餅¥220。杵でついた生地が冷めないうちに、手際よくこしあんを包むという先代からの教えを守っている。あんこはすべて藤村さんがひとりで炊いている。
店の風情も味わえるあんこ菓子を。小豆からあんこを炊く、名手の和菓子を求めて。vol.1
七条通沿いの店には、途切れることなく客が訪れる。

『出町ふたば』の暖簾分けとして、昭和6年に開業。現在は、初代の曾孫にあたる30歳の藤村陽平さんが、厳しかったという先代の味と技をしっかり受け継ぎ、四季折々の餅菓子を作っている。「『出町ふたば』譲りの豆餅はあんこがきれいに包まれているので、どこを食べても小豆の甘味、えんどう豆の塩気、お餅のバランスがいい」

住所:京都市下京区七条通大宮東入大工町120−2
電話:075−371−8643
営業時間:9:00~17:00 月火休 秋限定の丹波栗くり餅も人気。

『幸福堂』_河原町松原

店の風情も味わえるあんこ菓子を。小豆からあんこを炊く、名手の和菓子を求めて。vol.1
ごじょうぎぼし最中。羽二重餅の最中種からあんこがはみ出た太っちょが、弁慶¥320。丹波大納言の粒あんの上部には乾かないよう寒天が塗ってある。あんこがはみ出していない牛若丸もあり、こちらは丹波大納言のこしあん。
店の風情も味わえるあんこ菓子を。小豆からあんこを炊く、名手の和菓子を求めて。vol.1
2階であんこを炊いている。

創業は明治元年。お餅とお赤飯を扱う食堂だった当時、あんこをたくさん食べて喜んでもらいたいと考案したのが、ごじょうぎぼし最中。本店の近く、弁慶と牛若丸の伝説が残る五条大橋(現在は松原橋)の欄干に飾られている擬宝珠を最中でかたどった代表銘菓だ。「あんこのクオリティが本当に高い。いくつでも食べられます」

住所:京都市下京区松原通河原町西入松川町388−2
電話:075−341−8850
営業時間:9:00~18:30 水休 他に黒糖、抹茶、黒七味、塩バターなどの最中も。

『たから餅老舗』_四条大宮

店の風情も味わえるあんこ菓子を。小豆からあんこを炊く、名手の和菓子を求めて。vol.1
この日のおはぎは、粒あん、きなこ、こしあん、栗あんの4種で1個¥180。粒あんもこしあんも、糖度が低めで、ペロッといける。
店の風情も味わえるあんこ菓子を。小豆からあんこを炊く、名手の和菓子を求めて。vol.1
昭和9年にこの地で創業。店主の坂上さんは2代目。女将の気さくな接客も、庶民的なお餅屋さんらしくていい。

現代の名工にも選ばれた店主の坂上茂さんは、83歳にして現役バリバリ。いまも12種のあんこをひとりで炊き、餅へのこだわりもひとしお。「おはぎの生地が素晴らしく、包むあんこも季節によって微妙に加減を変えている。時季が合えば6月末の水無月もぜひ」。かざしの花(赤飯饅頭)やびっくり餅など、新しい菓子を次々生み出してきたアイデアマンでもあり、いまも和菓子の研究に余念がない。

住所:京都市中京区壬生馬場町20
電話:075−821−0670
営業時間:8:00~18:00 不定休

上菓子屋さんとおまん屋さん、 あんこが違うのを知ってますか。

“来年のお菓子は、どないさしてもらいましょか”。京都に古くから続く家には、いまでも出入りの和菓子屋さんがあって、年の瀬になると、菓子箱に正月用の上菓子をいくつも詰め、御用聞きにやってくるのだそうだ。干支の菓子に松のきんとん、紅白の薯蕷饅頭……。小さい頃から、祖母が注文する横で、和菓子を愛でて育ったという中川典子さんは、いまでも「毎日食べても飽きないのが不思議なくらい」の和菓子好き、あんこ好きである。そんな京都の和菓子店を知り尽くした、最強のあんこ案内人に聞いてみた。

「京都には、大きく分けて3つの和菓子屋さんがあります。ひとつは、社寺やお茶席などに使われる生菓子や干菓子を作っている上菓子屋さん。今回ご紹介した『御菓子司 聚洸』と、『千本玉壽軒』(今回はカフェの『茶寮 センタマ』を紹介)は、その代表格です。もうひとつが、普段食べるお饅頭や豆餅などを作っているおまん屋さんで、『七条ふたば』や『幸福堂』がそれにあたります。そして、白餅をメインにしながら、小豆を炊くのがうまい『たから餅老舗』などのお餅屋さんです。今回は、なんといっても“あんこを巡る旅”ですから、自分のところでちゃんと小豆から炊いている、あんこの名手のような店ばかりを選んでいます。ただ、同じ名手でも、上菓子屋さんと、おまん屋さんやお餅屋さん、『梅園』などの甘味処の炊くあんこは、味に違いがあります。前者はこしあんに代表される清らかな甘味で、後者は雑味のあるおおらかな甘味とでもいいますか。あんこ巡りでは、その違いを知るのも、面白いと思います」

そのほかにもうひとつ、あんこを作っているところがある。それが、さまざまな店のあんこを手がける製餡所。『都松庵』は、都製餡という製餡所から生まれた。

「京都のあんこを語るうえではずせない製餡所で、あんこへのこだわりがすごい。いろいろな種類のあんこを食べ比べできるのは、ここならではだと思います」

味わってほしいのは、おいしさだけにあらず。店の風情を知るのもまた、あんこを巡る楽しみのひとつ。

「上菓子屋さんなら、暖簾や主人が見立てた店の設え、店先の打ち水、接客の所作など、京都の情緒を前面に出していて、京都のおもてなし文化というのはこれなのか、と実感できると思います。一方で、庶民的なおまん屋さんには、おまん屋さんならではのせわしさがあり、これがまたいい。接客もフレンドリー。『幸福堂』などに行くと、おじいちゃん、おばあちゃんが和菓子を買っている横で、お店の方が忙しく働いている様子が見られると思います。また、新しい店ですけれど、“こんなところに?”という路地奥にある『菓舗 歩』も、京都らしい和菓子屋さん。ご夫婦で営まれている職住一致の店で、和菓子を選んでいると、奥から子どもの元気な声が聞こえてきて、昔の京都の和菓子屋さんはこうだったよなぁと懐かしさを感じます」

ここで紹介した店に限らず、和菓子店を訪れるなら、ぜひ、本店に足を運んで、京都ならではの佇まいを味わってほしいとも。最後に、あんこがおいしいおまん屋さんを見分ける、とっておきのコツを。

「京都のおまん屋さんやお餅屋さんに行くと、大抵、お赤飯を売っています。昔は、上菓子は、蒸菓子と書いたくらい、和菓子は蒸す技術が肝心。お赤飯は、もち米、小豆選びと蒸し加減ですから、お赤飯がおいしい店は、あんこがおいしい。ここで紹介した『七条ふたば』『たから餅老舗』『幸福堂』などには、お赤飯が売っていますから、豆餅やおはぎと一緒に手に取って、味わってみてください」

ゆっくり座って、あんこ三昧。名手の京の和菓子を求めて。vol.2

中川典子 Noriko Nakagawa京都酢屋 千本銘木商会 銘木師

京都生まれの京都育ち。実家は、老舗和菓子店の大看板なども手がけてきたという、江戸時代から続く銘木商。女性初の銘木師として、町家の再生や家具・建具製作に携わる傍ら、和菓子好きが高じて、和菓子と建築を楽しむ「京都・和菓子の会」を主宰している。京菓子の歴史にも詳しい。

photo : Kunihiro Fukumori text : Yuko Saito

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