FOOD 食の楽しみ。
あんこときなこを巡る旅-京都。福田里香さんが案内する、新旧の名店へ。December 23, 2023
あんこときなこのおやつの宝庫、京都。菓子研究家の福田里香さんが訪ねたのは、昔から変わらぬ味で伝統を守り続ける老舗と、新しい風を吹かせている和菓子屋。小豆と大豆、本来のおいしさを堪能できる味を探し求め、辿り着いた名店6軒を紹介。
京都はやっぱり奥深い。小豆と大豆を堪能させてくれる街。 談・福田里香
あんこは小豆のおいしさを、きなこは大豆のおいしさを味わう、日本の代表的なお豆の菓子。そのふたつを堪能できる、懐の深い街が京都。なにしろこれほどお菓子屋が多い街はほかにない。上生菓子を作る菓子屋から、饅頭や大福などの朝生を扱う〝おまん屋さん〞、餅や赤飯が並ぶ餅屋まで。様々なバリエーションは、都市の熟練度や歴史の折り重なりを感じさせてくれる。昔ながらの味に加え、新しい出合いがあるのも嬉しい。
あんこときなこ、両方を味わうといったら外せないのは『粟餅所・澤屋』。北野天満宮の門前で江戸時代から受け継がれている。「きなこは国産大豆の煎りたてひきたてを。こし餡の甘さが控えめなのは昔から同じ」と店主の森藤哲良さん。注文ごとに粟餅をちぎって、こし餡で包み、きなこをまぶす。家族総出で作る様子は、何度見ても見飽きることのない眺め。きなこの香ばしさに鼻をくすぐられつついただく粟餅は、ほんのり温かくて飲めるほどやわらか。うまい!と思わず口をついて出てしまう。なめらかですっと溶けるこし餡が2 つに、きなこが1 つ。どんな配分で食べるか、悩ましくも楽しいひととき。きなこが泣く、つまり湿ってしまっては残念なので、店で食べるか、気候が良ければ鴨川で食べてもいい。ぱくっと頬張れる気取らなさもまた餅菓子のいいところ。
物心ついたときから民藝が身近にあった私にとって、民藝好きの聖地のような『鍵善良房 四条本店』は京都に行ったら立ち寄りたい場所。のちに人間国宝になった黒田辰秋に12代目が依頼した水屋箪笥や棚が、いまだに使われているのはまさに用の美。名物「くずきり」もいいけれど、喫茶室で味わってほしいのは、しっかり煎ったきなこが香ばしい「わらびもち」。本わらび粉を使った、四角く分厚いわらびもちの弾力と食べごたえといったら! 持ち帰ってきなこを堪能したいなら、羽二重餅製の鍵もちという選択肢があるのもいい。
ではあんこといったら外せないのは『亀末廣』。注文した分だけ詰めてくれる最中「萬代」も、その年の新物の丹波大納言小豆だけを使って作る「大納言」も、つぶ餡のみずみずしさと品のいい甘さが見事。大粒の丹波大納言小豆だけを使い、朝から夕方までかけて胴割れしないよう弱火でゆっくり火を入れ、茹でこぼす意味の渋切りは2 回。大納言小豆が割れないよう、ざらめの蜜に漬けて一晩寝かせることで甘さを含ませ、和三盆糖を入れて仕上げると職人さんが教えてくれた。手数が入ると粘りが出るからと、手数は少なく短時間を心がけるという。最中を手で割っただけであんこのすごさが伝わり、初めて「大納言」をいただいたときには超がつくほど感動した味。今回取材をして、老舗の秘訣を聞けて感動もひとしお。
まったく違うベクトルのあんこを楽しませてくれるのが『みつばち』。店を構えて26年、今の場所に移って20年になる甘味処である。あんこが苦手だという姉妹が、独学で作ってみたら豆の味がしっかりして、おいしく感じたというエピソードが印象的。甘さを抑えているのが現代的で、砂糖を減らしたことで生じる日持ちの悪さは毎日作ることでカバーしているという。空間の心地よさも相まって、近所にあったら毎日食べたい味。
いつも変わらない老舗がある一方、ちゃんと新しい店が登場するのもまた京都の奥深さ。『老松』や『亀屋良長』、『出町ふたば』で修業した西森敬祐さんが2021年に開いたのが『まるに抱き柏』。修業先で身につけた上生菓子から餅菓子までが同じショーケースに並ぶのが新鮮に思える。「つぶ餡もこし餡も大切にしたいのは小豆の香り。炊き続けず、保温状態で火を入れることで香りを保ちます」と言う。のびがいい餅と香り高いこし餡の組み合わせに惹かれたのが看板の「黒豆大福」。
鞍馬口『幸楽屋』は少し変わった経緯で、2023年9月に登場した新店。店主の藤原嘉香さんは同年5月に惜しまれつつ閉店した『幸楽屋』で、長年職人として活躍してきた経歴の持ち主。大好きな「わらび餅」が食べられなくなるのが残念で、屋号と味をそのまま受け継いだという。たしかに飲めるような食感の「わらび餅」は、ここだけの味。きめ細かなきなこに包まれた、大ぶりでやわらかなわらび餅の中にはなめらかなこし餡。それぞれが主張しすぎない、バランスがちょうどいい。
炊き方の匙加減ひとつで変わるこし餡につぶ餡。煎り方やひき方はもちろん、合わせるお菓子が違えば味わいが変わるきなこ。どこで食べても発見がある。友人知人に尋ねれば、それぞれに贔屓があるのもごもっとも。京都に暮らす人々のリテラシーはとても高いのだ。その街のサイズ感ゆえ、巡って食べ比べられるのもまた幸せ。_
京都旅に欠かせない定番と、心くすぐる甘い新定番。
Trip to Kyoto京都_あんこときなこを巡る旅
福田さんが巡りたい店はほかにも。煎った大豆を粉にして作る洲浜の名店『御洲濱司 植村義次』の味を受け継いだ丸太町『すはま屋』のすはま。北野天満宮そばの『中村製餡所』ではつぶ餡、こし餡、白餡を。六角堺町『大極殿本舗 六角店 栖園(せいえん)』では、蒸したもち米で栗を包み、とろりとこし餡をかけた冬だけの味「福かぶり」がおすすめ。
photo : Akira Yamaguchi , Shoko Hara illustration : Sara Kakizaki text : Mako Yamato