INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。

フランスのテロワールを身近に感じながら。パリに暮らす文筆家・川村明子さんの部屋づくり。February 17, 2024

パリやその周辺に暮らす34組の住まいを訪ねて、部屋づくりの秘訣と、そこに詰まったベターライフのヒントを追いかけた特別編集MOOK「&Paris パリに暮らす人の、部屋づくり」。その中からここでは、文筆家・川村明子さんの住まいを特別に公開します。

ブランチのテーブルセッティングをする川村明子さん。「食材はマルシェに出店するパリ近郊の生産者から、直接買っています。テロワール (土地) を感じられる素材を味わえるのは、大きな喜びです」
ブランチのテーブルセッティングをする川村明子さん。「食材はマルシェに出店するパリ近郊の生産者から、直接買っています。テロワール(土地)を感じられる素材を味わえるのは、大きな喜びです」

パリやアミアンで見つけた、 愛すべき家具と食器たち。

 本誌で「パリのサンドイッチ調査隊」を連載中の川村明子さんの住まいは、1920年代に完成したアパルトマンだ。「二間続きのリビングと寝室、独立型のキッチンと浴室があり、広さは72㎡。不動産サイトで見つけて2008年に入居しました」

 リビングと寝室は南向き。冬でも昼前から、室内に燦々と光が入る。「内見のときに、台所に日が差していたのが決め手でした」と川村さん。

 場所はミラボー橋のすぐそば。1999年から2006年までこの近くに住み、その後は15区で2年間暮らした。2008年の転居時、このエリアに戻りたいと考え、場所を絞って家探しをしたそうだ。

 アパルトマンは家具なし物件。それに加えて収納もない。入居してから、少しずつ家具を買い揃えていった。「仏北部のアミアンで年に2回開催される、フランス最大規模の蚤の市にはよく行きます。マレ地区のブルターニュ通りで、春と秋に開催されるブロカントへも足を運びます」

 そして、特筆すべきはアンティークの食器の多さ。部屋中に、さまざまな形や大きさの食器がきちんと並べてある。「窯の刻印があるかどうかにこだわらず、気に入ったものを選んでいます」。その皿へ、慈しむように料理を盛り付ける川村さん。

「実は学生時代、雑誌の編集者になりたくて、女性誌の編集部でアルバイトをしていました。でも、大学3年生の冬に初めてパリを訪れて。空港からホテルへ向かうタクシーで、コンコルド広場を通ったとき『私、ここに住む』と決めたんです」

 旅行から戻り、早速留学の準備をスタート。夏休みには東京の語学学校で1日8時間の集中講座を受講し、フランス語を勉強した。そして大学の卒業式の1週間後に、ロワール地方のトゥールへと旅立った。

シルバーのトレーは15年以上前に訪れたブルックリンで、サイドテーブルはアミアンの蚤の市で購入。
シルバーのトレーは15年以上前に訪れたブルックリンで、サイドテーブルはアミアンの蚤の市で購入。
リビング。左のソファは百貨店『ル・ボン・マルシェ』、右のイタリア製のソファは〈アビタ〉。カーペットはモロッコのシェフシャウエンで。
リビング。左のソファは百貨店『ル・ボン・マルシェ』、右のイタリア製のソファは〈アビタ〉。カーペットはモロッコのシェフシャウエンで。
左はストラスブールのアンティーク市で買ったポット。牛乳を汲むのに使われていたらしい。木の台はブルターニュ通りのブロカントで。下段には本がぎっしり。
左はストラスブールのアンティーク市で買ったポット。牛乳を汲むのに使われていたらしい。木の台はブルターニュ通りのブロカントで。下段には本がぎっしり。
インドの布でものづくりをするパリのブランド〈カディー&コー〉のバッグ。
インドの布でものづくりをするパリのブランド〈カディー&コー〉のバッグ。
廊下の一角にもアンティークの食器が。スープ用の器は、ご飯ものをサーブするときに 活躍する。下段右は〈ショワジー・ル・ロワ〉。
廊下の一角にもアンティークの食器が。スープ用の器は、ご飯ものをサーブするときに 活躍する。下段右は〈ショワジー・ル・ロワ〉。
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豊かな土地が育んだ味を、 文章、映像、音声で表現。

「語学学校に入り、初めは寮生活を送りました。滞在中に中学生の頃から家で焼いていたお菓子を本場で学びたくて。フランスの家庭料理を知りたい、とも強く思っていました」

 ごはんがおいしいホームステイ先を探していたところ、料理上手のマダムの受け入れ先に出合い、5か月間滞在。「夕食の準備を毎日手伝いたい、そしてマルシェの買い物にはついていきたい、とお願いしました」

 ホームステイ中は希望どおり、毎日夕食の支度を手伝った。その際に学んだことは多かったという。

 その後パリへ転居。さらに半年ほど語学学校に通ったのち、「ル・コルドン・ブルー」の製菓課程へ入学した。パティスリーのディプロム取得後、翌年は料理課程も受講。もう少しで修了するというときに、学生時代にアルバイトをしていた、東京の編集部の人から「今、パリに来ている」と連絡が。「パリ支局長を紹介されて。それがきっかけで雑誌に携わるようになり、現在の仕事にも繋がっているんです」

 2010年頃までハードな取材を続けたが、同年に転機が訪れた。もともとは再編・監修として依頼された書籍の企画を、著者として引き受けることになったのだ。2011年春に『パリのビストロ手帖』、秋に
『パリのパン屋さん』(ともに新潮社)、そして、夏にはレシピ本『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)を出版。翌年は、テレビのドキュメンタリー番組の企画・構成も担当。

 2014年から制作したテレビ番組『お皿にのっていない時間』では、企画構成、取材、コーディネート、翻訳、インタビュー出演、ナレーションとその台本を手がけ、3作目からはハンディカムを片手に撮影も担うように。この仕事のおかげで、映像の制作にも興味を持ち始めた。

 現在は食をテーマとした記事を雑誌やウェブに連載するほか、Podcast、YouTubeに自身のチャンネルを持ち、幅広い分野で活動。また、新たなプロジェクトも始めた。彼女がふだんから食べている農家の野菜と果物を使い、商品開発をしている。

 数年のうちに実現したいことは、アトリエを持つこと。「屋根裏のワンルームを、本と器をテーマにしたオープンキッチンのアトリエにしたいですね。パリを訪れる、料理と器が好きな友人・知人たちが、地元の食を楽しめて、撮影もできる場所にしたいなと思っています」

左から時計回りに、アンディーブとオレンジ、セロリのサラダ。カブの塩もみのクルミオイルがけと、水菜のサラダ。白ビーツのマリネと生ハム。タイムとローリエを入れた水で一晩ふやかし、ミカンの香りつきのオリーブオイルをかけたアーモンド。
左から時計回りに、アンディーブとオレンジ、セロリのサラダ。カブの塩もみのクルミオイルがけと、水菜のサラダ。白ビーツのマリネと生ハム。タイムとローリエを入れた水で一晩ふやかし、ミカンの香りつきのオリーブオイルをかけたアーモンド。
まな板や木箱の蓋はカゴに収納。「木箱の蓋は、魚をさばくときに使っています」
まな板や木箱の蓋はカゴに収納。「木箱の蓋は、魚をさばくときに使っています」
「台所に立つ時間、街歩きの時間、読書の時間を大事にしています」
「台所に立つ時間、街歩きの時間、読書の時間を大事にしています」
アミアンで見つけた裁縫箱にマグカップを。
アミアンで見つけた裁縫箱にマグカップを。
パンはゴンクール駅近くの『アーバン・ベーカリー』。オーブンで温め、ブリア・サヴァランとゴルゴンゾーラと一緒に。
パンはゴンクール駅近くの『アーバン・ベーカリー』。オーブンで温め、ブリア・サヴァランとゴルゴンゾーラと一緒に。
キャンドルを灯して、ブランチの準備が完了!
キャンドルを灯して、ブランチの準備が完了!
川村明子

川村 明子文筆家

パリ在住。本誌にて「パリのサンドイッチ調査隊」連載中。サンドイッチ探求はもはやライフワーク。著書に『パリのパン屋さん』(新潮社)、『日曜日は、プーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)などがある。Instagramは@mlleakiko。Podcast「今日のおいしい」も随時更新。朝ごはんブログ再開しました。

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〈 モントロー〉のオクトゴナルのカップと〈サルグミンヌ〉の大皿。
〈 モントロー〉のオクトゴナルのカップと〈サルグミンヌ〉の大皿。
糸のコレクション。「カードに巻いたり、フードを贈る際にリボン代わりに使ったり します」
糸のコレクション。「カードに巻いたり、フードを贈る際にリボン代わりに使ったりします」
マッチ箱も蒐集。花と植物のモチーフはクリスマス時期に購入。左上の長方形は『シール・トゥルードン』のもの。
マッチ箱も蒐集。花と植物のモチーフはクリスマス時期に購入。左上の長方形は『シール・トゥルードン』のもの。
マルシェで買ったリンゴと、〈ビュリー〉のキャンドル。壁面の棚は〈イケア〉で。
マルシェで買ったリンゴと、〈ビュリー〉のキャンドル。壁面の棚は〈イケア〉で。
「明るい照明が苦手。夜はキャンドルで過ごします」
「明るい照明が苦手。夜はキャンドルで過ごします」
アミアンで見つけた吊り下げ式の照明。
アミアンで見つけた吊り下げ式の照明。
レモンの苗。「2020年3 月に外出禁止になった際にレモンを食べ、その種を11個植えたところ、すべて芽が出ました。そのうち6 株は今も元気」
レモンの苗。「2020年3 月に外出禁止になった際にレモンを食べ、その種を11個植えたところ、すべて芽が出ました。そのうち6 株は今も元気」

photo : Ayumi Shino text : Miyuki Kido

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