MOVIE 私の好きな、あの映画。
極私的・偏愛映画論『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』選・文/相場正一郎(『LIFE』オーナーシェフ) / May 20, 2017
This Month Theme素敵なキッチンに心温まる。
相場正一郎(『LIFE』オーナーシェフ)
「夫婦」とは、「ふたりで生きること」とは。
僕は特に都会が舞台になっている映画が大好きです。『オータム・イン・ニューヨーク』や『ノッティングヒルの恋人』のような映画の中に出てくる街並みが大好きで、観ているだけでそこに暮らしているかの様な気持ちになるものです。もちろん映画の内容も大事ですが、それよりなによりその映画の背景が気になります。そして僕の大好きなモーガン・フリーマンとダイアン・キートン主演映画も、”ただ楽しいだけのファストフード”ようなものでなく、芳醇な人生の香りを楽しめる心温まる作品です。
若い黒人の美大生アレックスがデッサンをするために、モデルに選んだのは白人女性のルース。彼はデッサンをしていくうちに、彼女の内面の美しさに惹かれていく。当時、今よりも黒人と白人の結婚がとても難しいと言われていた時代に一緒になったふたり。その後、古い建物だが趣のある物件をふたりは気に入り購入するが、エレベーターなしの5階の部屋で愛犬ドロシーを交えて穏やかで落ち着いた生活を送っていた。若い時は階段の登り降りに問題がなかったが、それから40年が経過して、夫の足に負担が出る様になってしまい、ついにふたりは引っ越しの決断した。そこでいよいよオープンハウス巡りをし始めた。
古い家に40年住んだ老夫婦は大切な決断をしようとしますが、40年前と変わらない価値観のふたりがいることを改めて再確認する。ふたりはそのことをオープンハウスを回ったときに強く実感することになる。画家として成功した夫と元教師の妻は、社会的地位を得ながらも、好きな風景、食器、家具が出会った頃と今も変わっていないことに改めて気づくのだ。そんな熟年夫婦たちが、自分たちの生き方や価値観を問う姿から「ふたりで生きる」ことの意味を問いかけられる。
回想シーンで当時子供が欲しかったふたりがキッチンで作業しながら揉める場面がある。『私には普通のことができないの』『必要性の問題じゃないわ』『自分たちが望むかどうか?』結局愛し合うふたりは子宝には恵まれなかった。楽しい食卓のシーンではなく、映画の中でシリアスな場面として際立っているこのシーンが非常に印象深く、表現としてはとても難しいはずのシーンをベテラン俳優が悉く演じる様もとてもリアルに感じました。もしかしたら、どの夫婦もこの問題に直面したこともあるかもしれませんが、ふたりで乗り越えて行き、夫婦の絆を強めていく。壊れそうになりながらも、その夫婦の絆を築き上げていく強さを感じた映画でした。
僕ら夫婦も学生時代に経験したイタリア生活で身につけた価値観が20年以上経った今でも根底にあり、互いに共有できる時間があることに幸せを感じられることを再確認させてもらったような気がしました。この先もこの映画のように夫婦ふたりの共通価値感はずっと守っていけたらと思います。