Interior

室内でも屋外でも、 自然を身近に。『REFACTORY antiques』店主・渡邉優太Enjoy Life at Home 01 / December 25, 2020

心地よい暮らし方の基本はなんといっても住まい。在宅ワークも含めて自宅時間が増えた昨今、 大切なのは住まいそのものを楽しむこと。一年の締め括りに、または新たな年のスタートに、自身の住まいを見直してみませんか。自宅の空間に様々な工夫を施し、 「住まいを楽しんでいる」13組の人々を訪ねた、2020年11月発売の特集「住まいを楽しむ、暮らし方」より、『REFACTORY antiques』店主・渡邉優太さんの住まいをご紹介します。

「自然光が降り注ぐサンルームは、活力を与えてくれる心地よい空間。ここでいろんなことができるように、古材とアイアンでカウンターをDIYしました」と渡邉さん。主に食事や読書、家事を楽しんでいる。
「自然光が降り注ぐサンルームは、活力を与えてくれる心地よい空間。ここでいろんなことができるように、古材とアイアンでカウンターをDIYしました」と渡邉さん。主に食事や読書、家事を楽しんでいる。

外と家の中の境界線が曖昧な、 自然の息吹を感じる空間づくり。

「家に入る前に庭を歩きませんか?」。そう言って、自ら植えた植物の魅力を一つ一つ丁寧に教えてくれた渡邉優太さん。1970年代後半に建てられたサンルーム付きの2階建ての一軒家を囲うように造られた庭には、ハゼノキ、モクレン、キンモクセイ、クロモジ、赤い実をつけるピラカンサなど、大型の多種多様な植物が育つ。緑色から紅色に変わった落葉樹の葉がハラハラと舞い、季節の移ろいを知らせている。植栽の周りには、野鳥が一休みできる水飲み場のバードバスも。ときどき庭を訪れる野鳥のさえずりや動きを楽しんでいるという。

「出身は東京・板橋で子どもの頃からずっとマンション暮らし。新卒で入社した〈ザ・コンランショップ〉で植物の担当をしていたことをきっかけに、植物とともにある生活の豊かさを知りました。自立したら、自然豊かなエリアで庭がある家に住みたいとずっと思っていて。イメージしたのは、すぐに庭に出られるような地面に近い暮らし。古くてもいいから、庭があって、自分らしい空間にしていける余地があるところに住みたかったんです。ここに住む前は、埼玉県入間市の会社で働き、平屋をリフォームして暮らしていました」

 新たに物件を探していたときに最初に出合ったのが、飯能駅から車で10分程度の静かなエリアにあるこの家だった。

「以前は賃しに出ていなかったと聞きましたが、全部自分で直すことを条件に借りることができました。前の住人の残置物を処分するところから始め、自分でリフォームして10年ほど住んでいます。もともとは、もっと山小屋っぽい雰囲気で。そのままだと、重たい印象だったので、壁や天井を張り替えていまの時代に合う雰囲気にしつらえて。僕は建築家の吉村順三が建てた軽井沢の山荘の雰囲気が好きで、リフォームするときはその家にもヒントをもらいました」

四季折々の庭の風景が見られる、壁
一面が窓になった1 階リビング。格子状の収納棚も渡邉さん自作。仕切りを付け、テーマ別に収納したり、オブジェを飾ったりできるようなつくりに。
四季折々の庭の風景が見られる、壁 一面が窓になった1 階リビング。格子状の収納棚も渡邉さん自作。仕切りを付け、テーマ別に収納したり、オブジェを飾ったりできるようなつくりに。
リビングの反対側の壁にはベニヤ板を張り、天井と壁まわりの色を統一。ロッキングチェアを置き、寛げる空間を意識した。窓際にはコーヒーを淹れる道具をまとめたコーナーも。
リビングの反対側の壁にはベニヤ板を張り、天井と壁まわりの色を統一。ロッキングチェアを置き、寛げる空間を意識した。窓際にはコーヒーを淹れる道具をまとめたコーナーも。
庭のツゲの木を剪定。季節の植物で空間を健やかに。
庭のツゲの木を剪定。季節の植物で空間を健やかに。
深煎りコーヒーを淹れるのが、渡邉さんの習慣。
深煎りコーヒーを淹れるのが、渡邉さんの習慣。

 張り出すように作られたサンルームは、元からあったものだが、生け垣に覆われた眺めがいまひとつだったため、自力で抜根。視界の抜けをすっきりとさせた。
「外と家の中にはっきりとした境界線のようなものをつくりたくないという強い想いがありました。サンルームから見えるオリーブは、小さな鉢植えの状態から植え替えて、いまでは窓と同じくらいの背の高さにすくすくと育って。そのおかげで、外からも中からも、人の視線が気にならない空間をつくることができました。このサンルームは、僕にとっては、暮らしの動線の中心。キッチンとリビングに行くときに必ず通る場所なんです。だから、いろんな家事ができるようなスペースにしたら、暮らしが整いそうだな、と。サンルームの隣はキッチンなので、料理中に出た米のとぎ汁を植物にあげることも。水やりを気に留めやすいポジションだし、壁に換気扇を付けたら、植物が生き生きと育つようになったことが嬉しくて。夜は読書をすることも多いです。手元を灯せるように、高さを調節できるペンダントライトも吊るしました」

 カウンターの木材には、耐水性の強い栗の木を選び、自然な経年変化を大切にした。暮らしにすっと溶け込む家具や空間を提案する渡邉さんの審美眼や経験値を物語るような選択である。

「カウンターはアイロンをかけたり、コーヒーを淹れたりするのに、ちょうどいい高さを計算しました。デザインはシンプルだけど、いろんな使い方ができるインテリアが好きなんです。リビングにある1970年代の〈ヤマギワ〉の照明も、高さや位置を動かせるところが気に入っています。〈アーコール〉のロッキングチェアに腰掛けて、本を読むときに重宝していますね」

 10年かけて自分好みの空間をつくり上げてきた渡邉さん。この家が持ち家になれば、「薪ストーブを置き、窓の外に縁側のようなデッキを作りたい」と、リフォームを楽しむ熱はまだまだ冷めやらない。

2 階の寝室。1 階リビングと気分を変えるために壁は落ち着いたグレーを選択。板の張り方は隙間を設ける「目透かし仕様」を選びニュアンスをつけた。
2 階の寝室。1 階リビングと気分を変えるために壁は落ち着いたグレーを選択。板の張り方は隙間を設ける「目透かし仕様」を選びニュアンスをつけた。
1970年代後半に建築家によって建てられた一軒家。サンルームも自ら補修。窓のすぐそばにオリーブの木を植え、周囲からの目隠しに。
1970年代後半に建築家によって建てられた一軒家。サンルームも自ら補修。窓のすぐそばにオリーブの木を植え、周囲からの目隠しに。
玄関も〝外にいる感覚〞を意識した。開放的なガラス張りの窓から、庭の植物を感じることができる。
玄関も〝外にいる感覚〞を意識した。開放的なガラス張りの窓から、庭の植物を感じることができる。
2 階の和室からは、紅葉したハゼノキが見える。庭の一角で寛げるアウトドアテーブル&チェアを。
2 階の和室からは、紅葉したハゼノキが見える。庭の一角で寛げるアウトドアテーブル&チェアを。

渡邉優太 『REFACTORY antiques』
Yuta Watanabe

ユニバーサルデザインに関心を抱き、大学では工業デザイン、人間工学を学ぶ。卒業後〈ザ・コンランショップ〉に入社。植物やガーデンファニチャーの担当に。その後、いくつかの仕事を経て、独立。埼玉県飯能市に『REFACTORY antiques』を開店。国内外で買い付けた古い家具を修理して販売し、個人宅のリフォーム、店舗の空間演出も手がける。

photo : Mitsugu Uehara edit & text : Seika Yajima

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