名著を読み解く、大人の読書感想文。課題図書/『モモ』 文/中村佳穂 — Book Review 2 | Special | & Premium (アンド プレミアム)

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Book Review 2 / December 25, 2020 名著を読み解く、大人の読書感想文。課題図書/『モモ』 文/中村佳穂

誰もが取り組んだ学校の宿題といえば読書感想文。様々な経験を積み重ねた大人が、改めて名著に対峙するとき、どんな感想を抱くのだろうか。教科書に掲載されるほどのタイトルを課題図書に、5人が新たな視点で自由に感想を綴った。

 
モモ

課題図書
『モモ』
ミヒャエル・エンデ 作 大島かおり 訳 岩波少年文庫

円形劇場に住む奇妙な格好をした「モモ」という不思議な力を持つ少女が「灰色の男たち」に盗まれた街の人々の「時間」を取り戻そうと冒険に繰り出す。時間の価値を問いかける不朽のファンタジー小説。

中村佳穂

文/中村佳穂 Kaho Nakamura
ミュージシャン

1992年京都府生まれ。2歳のときピアノに出合い、大学在学中に音楽活動を開始。2018年にリリースしたアルバム『AINOU』で多くの支持を集める。tofubeatsなど多くのミュージシャンの楽曲に参加し活動の幅を広げている。

モモに会いたい

 ひとりに与えられた一生の時間というものは、減りはするが増えるものではない。だから、とても大事にしなきゃって。人間は時間を上手く使えた日には安心して、上手く使えなかった日には嘆いたりする。
 時間は各自に定められた分だけ配られている。この小説の中で時間を配っているマイスター・ホラは言う。
 「光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのとおなじに、人間には時間を感じとるために心というものがある」

 日は昇ると沈み、明るいうちに行動する生き物は、日が暮れるにつれ、できることが限られていく。人間だって元々その繰り返し。なはずなのに、私は時計がないとちょっと不安になる気がする。時間が進む感覚について、大抵みんなカレンダーや時計に頼っている。

 お腹が減るとお腹の真ん中が空っぽになった感覚がある。そして食べると満たされる。時間も減ったことは、時計がなくてもなんとなくわかる。 だけど、お腹と同じように減ったその分だけ後から何かをして〝満たす〞ということはできるのだろうか。

 タスクを上手くこなせた時? いやいや、それは〝達成感〞。それだけじゃないはず。ライブの演奏中? 〝楽しい〞の只中にはいるけど、〝満たされている〞という感覚とはちょっと違う。

 この小説の主人公のモモは決して特別に何かができる子供ではなかった。けれど人より優れていたのは「耳を傾ける」こと。生きている中で何かに不安を持っている人がモモの傍にいくと、彼女はじっくりじっくり、答えを待ってくれる。
 すると、自ずと答えを自分の中から見つけていく。そうして世界を救ってしまったのだ。
 街のみんなは言う「モモに会いに行ってごらん!」。

 もし、「私も会いたい」と思ったあなたは、きっと読むといいよ。ちょっとページが長いのが良いね。モモが傍に座ってジッと耳を傾けてくれている。終わる頃にはそう思えるようになるはず。

 なんとさっきの謎は解け、本を読んでいる間に自分の答えを見つけてしまった。モモに会いに行ってごらん! ジッと景色をみつめている日のような、無駄だとか、有意義だとかそういうことと関係ない、心の機微を豊かに感じとれる時間をもらえるはずだよ。

illustration:Shapre edit : Seika Yajima
※『&Premium』No. 70 2019年10月号「あの人が、もう一度読みたい本」より