BOOKSHOP 本の栞


選・文 / 本の栞 / April 13, 2023 本屋が届けるベターライフブックス。『じゃむパンの日』 (palmbooks)

This Month Theme言葉のセンスが光る本。

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エッセイの名手として知られた赤染晶子さんによる初のエッセイ集。給湯室で妄想する新妻としての暮らし、昭和のニート鶴吉さん、猫まみれの自動車教習所、指を使わないと算数のできないちび君、お寺の小僧さんへの片思い…などのただでさえ愉快なエピソードを赤染さんのコミカルな語り口と、登場人物たちの京都弁が引き立たせる。赤染さんは2017年に若くして亡くなられてしまった。彼女のエッセイをもう読めないことと同時に、登場したキャラクターたちにももう会えないのかと思うととても寂しい。岸本佐知子さんとの交換日記も併録。


選・文 / 本の栞 / April 06, 2023 本屋が届けるベターライフブックス。『百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこわれわたしたちはそれを見た』野村日魚子 著 (ナナロク社)

This Month Theme言葉のセンスが光る本。

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「それはとても寂しいことだという あなたを知る天使はみな表面積の少なく」「愛はとても速く誰も見たことがないというそれをいまからあなたに見せる」「百年たてばみんな死ぬって力強く言われてすこし驚いて眠る」歌人・野村日魚子さんの第一歌集。短歌は前提として57577という決まりがあるものだが、日魚子さんのよむ短歌はその文字数を大幅に超えるものばかり。しかし、読んでみると不思議と言葉にリズムが生まれ、なるほどこれはたしかに短歌だと思えてくる。そしてその一首一首、31文字前後のなかに、生きているもの、死んでいるもの、愛にまつわることが隣り合って混ざっている。短歌というものの広がりを知る一冊。


選・文 / 本の栞 / March 30, 2023 本屋が届けるベターライフブックス。『心がなければ幸いだ』SAME OLD SERENADE 編 Ishidakanako、北林研二 装画 (SAME OLD SERENADE)

This Month Theme言葉のセンスが光る本。

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黒い表紙の小さな本。表紙を眺めるも、暗い部屋で横になる女性の絵が印刷されているだけでタイトルのようなものは見当たらない。背表紙を見てみる。薄いオレンジ色の文字で「if you don’t have a heart, you are very lucky.」…「心がなければ幸いだ」。個人出版社「SAME OLD SERENADE」によるアンソロジー、テーマは「離婚」について。一人でいようが二人でいようが、生きていくことはひどく孤独で、それでも誰かといた美しい瞬間に救われ続けるものなのかもしれない。読み終えたときにもう一度タイトルの言葉を思い浮かべて、苦いような、救われるような気持ちになる。素晴らしいタイトルの一冊。


選・文 / 本の栞 / March 23, 2023 本屋が届けるベターライフブックス。『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』 古賀及子 著 (素粒社)

This Month Theme言葉のセンスが光る本。

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『すねるように眠く』などのZINEが人気の古賀及子さんによるウェブ連載日記がはじめての書籍化。母親である古賀さんと、「鋭角的なかわいさ」の娘、「鈍角的なかわいさ」の息子との3人暮らしを綴る。本の帯には、「あー、今からでも古賀さん家(ち)の子に生まれたい!」といった、岸本佐知子さんの言葉が書いているのだが、私は「こんな子育てならしてみたい!」と思った。子供たちに対して1人の人間として対等に接し、ときには友人のように、ときには愉快な謎の生き物を観察するようにしながら共に生活してゆくさまが、軽快な文体で描かれている。「純粋なから揚げの行列」「とりあえず子らにバナナを渡す」「スーコー言わずに飲んでみよ」など、なんともチャーミングな言葉選びがなされた各章タイトルも素敵です。


BOOKSHOP 本の栞

神戸元町にある新刊と古本を扱う本屋。リトルプレス、個人出版社の選書に力を入れている。そのほかにCDやカセットテープの販売も。店内では珈琲や酒を楽しむことができる。
住所:兵庫県神戸市中央区元町通4-6-26 1F北 元村ビル
営業時間:12:00~19:00
定休日:水

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Latest Issueエレガンス、であること。2023.09.20 — 920円