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『みんげい おくむら』奥村忍さんが映画で学んだ、台所道具の機能美。MOVIES FOR LIFE 01 / September 03, 2021

ファッションやカルチャー、日々の暮らしをベターにしてくれるちょっとしたアイデアまで、いつの時代も映画はたくさんのことを教えてくれます。本誌94号の特集「映画が教えてくれる、素敵なこと」では、手仕事で作られた生活道具の買い付けで中国や台湾をよく訪れていたという『みんげい おくむら』の奥村忍さんに、各時代の機能美を誇る台所道具が出てくる3作品を紹介してもらいました。

食材などを入れる竹かご

サンザシの樹の下で
   

湖北省の田舎に住み込み実習にやってきたヒロインが、滞在先で台所仕事を手伝う際に登場する竹製のかご。中国で古くから多目的に使われてきた入れ物の一つです。1970年代初頭という時代背景から、ひとつひとつ手作業で作られていたものだと考えられます。竹は本来青っぽいのですが、このかごは使い込まれて飴色がかっているところが味わい深い。ちなみに、ヒロインが暮らす都会の場面で登場する竹かごは青いままなんです。田舎と都市の違いをこんなに細かいところでも表現していたのかな、など想像が膨らみますね。

   

サンザシの樹の下で

チャン・イーモウ
The Love of the Hawthorn Tree / 2010 / China / 114min

舞台は文化大革命下の中国。再教育の一環で、農村へと派遣された女子高生のジンチュウは、地主の息子でエリートの青年、スン・ジェンシンと出会う。ふたりはすぐさま惹かれ合うが、身分の違いによりその純粋な恋は阻まれ、物語は悲劇的な結末へと向かう。

水餃子を茹でる大鍋

軍中楽園
   

中国と対立していた1969年の台湾が舞台。主人公の青年兵は、大陸出身の上官と親しくなるのですが、その上官の故郷の味として水餃子が劇中に度々登場します。茹でるときに使われるのが、どしっと重みのある鉄の中華鍋。日本と同様に、家族の人数が多かったひと昔前の中国や台湾の家庭では、土間のかまどに常に大鍋をセットし、炒めたり、茹でたり、蒸したりと、あらゆる料理をすべてこの一台で行っていました。巨大で平べったい形はその生活文化の象徴。蓋を開けたときに立ち上る湯気が食欲をそそる一コマです。

   

軍中楽園

ニウ・チェンザー
Paradise in Service / 2014 / Taiwan / 133min.

中国と台湾との対立が激化する中、攻防の最前線である金門島に配属された青年兵、ルオ・バオタイは831部隊と呼ばれる小部隊へと配属される。そこでの任務は娼館を管理することだった。本作は、台湾の巨匠映画監督、ホウ・シャオシェンも編集に協力した。

まな板と中華包丁

胡同愛歌
   

2000年代の北京で暮らす庶民の日常が描かれたこの作品。普段は頼りない一人親の中年主人公が、手慣れた様子でたたききゅうりを作るシーンが印象的。そもそも中国での包丁の使い方は、引いて切るのではなく叩いて切ることが多く、野菜はもちろん肉の骨まで一本の包丁でカンカンと叩き切るのでまな板がすぐに傷むんです。だから丸太をぶった切ったような分厚いまな板を包丁で削りながら使うのが定番でした。次第にコンパクトなものに取って代わられてしまいましたが、長く使うことを見越した理に適った道具だといえます。

   

胡同(フートン)愛歌

アン・ザンジュン
The Parking Attendant / 2003 / China / 96min.

北京オリンピックに向けて再開発が進む北京の路地裏、胡同(フートン)で暮らす駐車場の案内係・トウは、一人息子のシャオユーとともにひっそりと穏やかな生活を送っていた。だが、トウが再婚を決めた女性の前夫が嫌がらせを始めたことを機にその暮らしは崩れていく。

   

奥村 忍 Shinobu Okumura

2010年から日本、中国、台湾、東南アジアなどの手仕事の生活道具を提案するWEBショップ『みんげい おくむら』を主宰する。著書に『中国手仕事紀行』(青幻舎)。

   

llustration : Ayaka Otsuka edit & text : Emi Fukushima
※『&Premium』No. 94 2021年10月号「映画が教えてくれる、素敵なこと。」より

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