日本の美しい町を旅する。

富山、立山連峰”特等席”の町で過ごす至福の時間。後編July 17, 2024

その土地でしか味わえない食や、ものづくりに出合うことは、旅における大きな楽しみのひとつ。さらに、その町に暮らす人たちが織り成すカルチャーに触れられれば、より一層、旅の思い出が心に刻まれるもの。訪れたのは、標高3000m級の山々が連なる北アルプス立山連峰の眺望が背景に広がる富山市。ここは「立山あおぐ特等席」といわれる。水などの天然資源や食が豊富で、暮らす人々も穏やか。この地では心なしか時の流れがゆっくりと感じられる。国内外の手工芸を扱う『林ショップ』を営む林悠介さんに聞いたおすすめの過ごし方とは。この記事は富山を旅した後編です。前編はこちら

24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。

24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。
伝統工芸、八尾の和紙づくりを継承する『桂樹舎』(富山市八尾町鏡町668−4)。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。
ここでは、手すき和紙のレターセットやハガキ、型染めの小物が購入可能。
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居酒屋『ちろり』(総曲輪1−4−3−1F)は、母と娘(中と右)が切り盛りする名店。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。
旬の魚介はもちろん自家製ホタルイカの干物(¥600)が通年メニューにある。左は白えびの唐揚げ(時価)。
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創業大正12年の老舗そば屋、野花そば処『つるや本店』(総曲輪2−8−15)。
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無添加そばが美味。鴨せいろ¥1,250。
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『シックス オア サード コーヒースタンド』(総曲輪2−7−12)は憩いのスポット。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。
ドリップコーヒー(¥600)、アップルサイダードーナツ(各¥250)を一緒に。
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市内の中心部を流れる松川。両サイドは桜並木で遊歩道をのんびり散歩できる。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。
パンや焼き菓子、グロサリーなどを扱うカフェ『atelier R.S.』(五福834−8)。店主の荒井江里さんと息子の理作くん。不定期営業のためSNSで要確認。
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『atelier R.S.』の建物は1974年に建てられたモダン建築。中庭の大木も印象的。
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『流動研究所』の作品は公式サイトで購入可能。工房のオープン日はSNSを確認。
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『古本ブックエンド』(総曲輪2−7−12)。コンパクトな店内にアート系、カルチャー系、文芸書などがぎっしり並ぶ。
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シネマホール、ライブホール、カフェスペースが併設された複合型文化施設『ほとり座』(総曲輪3−3−16−4F)。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。
機能美を兼ね備えた家具やプロダクト、オブジェなど、店主・野村晃二朗さんのセレクトが光る『CARGO』(山室27)。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。
ギャラリーのような広い空間が印象的なこの店には、陶芸家の山田洋次や上田勇児、浜名一憲、彫刻家の山崎悠人ら、人気作家の作品の数々がディスプレイ。
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富山地方鉄道不二越・上滝線の鉄道風景。
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県内産の野菜、肉、魚、加工品などが集まった、食材のアンテナショップ『地場もん屋総本店』(総曲輪3−3−16−1F)。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。
喫茶店『やまむろ』(総曲輪2−1−5)のサンドイッチセット(¥780)。ふわふわのパンに定評があり、上品な味わい。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。
店内は落ち着いた雰囲気。朝から営業しているのでモーニングにもおすすめ。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。
富山おでんとナチュラルワインが堪能できる『飛弾』(上本町4−7)。「出汁のような味わいを持つ赤ワインとおでんがよく合うんです」と店主の飛弾翔二さん。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。
おでんは¥100~800、グラスワイン¥900~。自家製レモンサワーもおすすめ。
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富山市は路面電車はじめ、電車が縦横無尽に走る「鉄軌道のまち」でもある。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・富山。
小物から大きな家具まで制作する、北アルプスの麓の家具工房『カキ キャビネットメーカー』(本宮粟巣野2−3)。店までは車が便利。行く途中は絶景が続く。

The Guide to Beautiful Towns_富山

立山の絶景を背に町歩き、ささやかな日常を楽しむ。

「富山のシンボルといえば立山連峰。ここに住んでいる僕らはいつも山に守られているような、そんな意識があるんですよね」と話すのは市内で『林ショップ』を手がける林悠介さん。古くは万葉集の歌にも詠まれた立山は、立山信仰の広がりとともに「神々が宿る山」として崇められてきた歴史がある。標高3000m級の立山連峰は、毎日見えるわけではなく、いくつかの気象条件が揃ったときに、その全景を拝むことができる。

「山がくっきり見えると、高い壁が聳え立つ感じ。町の景色としても他にあまりないと思うんです」

林さんが「壁」と表現するくらい、初めて見る者は、その巨大さと、唐突さに度肝を抜かれる。地元の人たちは、立山がきれいに見える日は「今日はいいことありそう」と感じるのだという。市内にいくつか展望台があるが、林さんのお気に入りは標高150mほどの呉羽丘陵にある城山展望台。

「地元では呉羽山公園展望台が有名ですが、僕が好きなのはこちら。手前の田園地帯から背後の立山連峰までの景色の層が美しく、富山ならではの風景だと感じます」

市の中心部にある総曲輪エリアで、林さんが店を始めたのは2010年のこと。国内外からセレクトされた焼きものや民藝品、クラフトを置く店ゆえ、県内外さまざまな作家と付き合いがあるが、林さんからすると富山のものづくりは少し変わっているという。

「いろいろなジャンルの作家さんがいらっしゃるのですが、富山市は、いわゆる土地を代表する伝統工芸があまりないエリアでもありまして。歴史があるのは和紙。『桂樹舎』が有名で、芹沢銈介の型染カレンダーの和紙を漉き続けています。ガラスはここ30年くらいの間に有名になりましたが、元々は『越中富山の薬売り』の流れで、ガラスの薬瓶を作っていた歴史があるから。今は市がガラス全般に力を入れ、作家も増えています」

土地を代表する伝統的な工芸品は少ないが、でもだからこそ、ルールやしがらみがなく、作家はおのおの自由に活動しているという。

「それぞれのものづくりのスタンスが尊重されるというか、うるさく言うような人もいません。『お花畠窯』の高桑英隆さんや立山の麓で家具づくりをする『カキ キャビネットメーカー』も自然に生まれた独自のスタイルがある。そういう意味で富山のものづくりは、とても風通しがよいと思います」

その自由で緩やかな空気感は『林ショップ』周辺の店にも表れている。店がある、本願寺富山別院の裏手にある長屋は昔ながらのままだが、最近は『シックス オア サード コーヒースタンド』や『古本ブックエンド』など、新旧入り交ざった店が立ち並ぶ。『林ショップ』の隣は『スケッチ』というギャラリー。ここは林さんが仲間3人で運営するシェアスペース。企画展やフランス語教室、デッサン教室、ライブ、上映会などを開催しており、イベントのある日には幅広い世代が行き交い、通りも賑やかな雰囲気になるという。

富山の食のシーンも面白い。林さんのおすすめは地元に愛されている、個性的な店主のいる店。

「一つは『ワインバー アルプ』。東京やフランスで経験を積んで地元に戻ってきた池崎茂樹さんの店。ここでしか飲めないナチュラルワインが豊富で、元々スナックだった場所を改装したという店の雰囲気もいい。もう一軒は『飛弾』。ナチュラルワインで富山おでんをいただくスタイル。店主・飛弾翔二さんのこだわりが凝縮されています。そして居酒屋『ちろり』は、母娘で切り盛りする店で、富山名物のホタルイカやシロエビ、郷土料理が堪能できます。僕の父が教えてくれた、隠れた名店です」

富山市出身だが、他県で暮らしたことのある林さんが、つくづく思うのは、富山は毎日の暮らしにこそ良さがあること。日常的に町の中から見える立山連峰はもちろん、市内中心部を流れる松川沿いの遊歩道、気の利いたカフェや居酒屋、バー、ミニシアター、古本屋がどれも近所にあること、通年堪能できる海の幸があり、蛇口をひねれば、おいしい水が出てくる。そして、穏やかでおおらかな人々。

「ささやかですが、わかりやすい観光地ではないからこそ、とても暮らしやすい場所だと思うんです」

だから富山に来たらあくせく回るよりも生活するようにゆっくり滞在するのがおすすめと林さん。

「実際に、年に数回、2泊3日くらいで関東から来られているお客さまがいらっしゃるのですが、『富山で何してるんですか』と聞くと、『松川沿いを散歩しています』と。僕とやっていることが変わらない(笑)。ここではローカルと同じような日常の暮らしを感じてもらえたら。それがいちばんおすすめしたい、富山での過ごし方です」

林 悠介 『林ショップ』店主

富山県生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、東京で働きながら、写真や、鋳物の原型デザインなどを手がける。2010年『林ショップ』を、’16年にギャラリー『スケッチ』をオープン。現在、作家活動と店主の二足の草鞋を履く。

林 悠介
 
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富山駅まで、東京方面から北陸新幹線で約2時間、大阪・名古屋方面からは特急、新幹線を乗り継ぎ、約2時間30分。飛行機の場合は羽田空港から富山空港まで約1時間。主要都市から高速バスもある。富山市内は路面電車や路線バスなど公共交通機関が充実している。立山方面へはレンタカーがあると便利。

photo : Tetsuya Ito illustration : Junichi Koka edit & text : Chizuru Atsuta

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