ひみつの坪庭コレクション
京の地で脈々と受け継がれる、『いづ重』の庭。ひみつの坪庭コレクション vol.20August 09, 2025
京都の店々に密やかに備わる坪庭は、この街に暮らす人々の美意識を象徴するような場所。京都に出かけたら見に行きたい、小さくも美しい庭を紹介します。
ひもとかれた重なる歴史の層。
―いづ重―

京都の街というのは、思いがけず歴史の欠片に出合うことがある。明治45年に真葛ヶ原で創業し、昭和23年からは現在地に店を構える京寿司の老舗『いづ重』の庭もそう。老朽化に耐えかねた築年数不詳の建物を取り壊し、店を一新すると同時に、受け継がれてきた庭も新たな姿になった。
「更地になった今こそと、井戸を掘りましたら、祇園さんと同じ水脈のいい水が出ました。水源があるので、清らかな水が流れるようにと」と4代目当主の北村典生さん。
「元の庭は明治時代に作られたもの。その前は膳所藩の大名屋敷があり、蹲に仕立てた灯篭の礎石はその時代のもの。三角の石はさらに時代を遡り、土の中から出てきた室町時代の御影石。ノミの跡からわかるそうです」
並んで植えられているのは、夏に花咲く祇園守。花が八坂神社の神紋に似ていることからその名がついた、木槿の一種だ。
「元から植わっていたのは赤い花。ぎょんさんの境内に咲くのは白い花。茶室『待庵』は赤白と聞いて、三色を揃えました」と北村さん。脈々と続く歴史の新たな一頁に加わった、穏やかな庭は時を刻み始めたばかりだ。


八坂神社の氏子でもある北村さんは親しみを込めて「ぎょんさん」と呼ぶ。名物の鯖寿司はいい鯖が手に入る冬まで休みでも、鱧寿司などがある。
▷『いづ重』
京都市東山区祇園町北側292−1
10時30分~19時 水木休
▷『いづ重』
京都市東山区祇園町北側292−1
10時30分~19時 水木休
photo : Yoshiko Watanabe illustration : Junichi Koka edit & text : Mako Yamato