河内タカの素顔の芸術家たち。
テクノロジーと身体を結んだ先駆的アーティスト 田中敦子【河内タカの素顔の芸術家たち】December 10, 2025

田中 敦子 Atsuko Tanaka
1932 - 2005 / JPN
No. 145
大阪府出身。1951年に京都市立美術大学(現在の京都市立芸術大学)を中退後、大阪市立美術館付設美術研究所に学ぶ。同研究所に通っていた後の夫の金山明の助言により抽象画に興味を持つようになる。1952年、金山、白髪一雄、村上三郎らと「0会」を結成。1953年から1955年頃は、布に数字を書き、一旦裁断し再びつないだ『カレンダー』を作る。1955年に吉原治良が主導する具体美術協会に入会し主要メンバーになり、同年壁際の床に2メートル間隔で置かれた20個のベルが順に鳴り響く『ベル』を発表。1993年、第45回ヴェネツィア・ビエンナーレに出品し、2012年に東京都現代美術館で大規模な回顧展が開催された。
テクノロジーと身体を結んだ先駆的アーティスト
田中敦子
戦後の女性前衛芸術において、草間彌生とオノ・ヨーコに並ぶ偉才と評されたのが田中敦子です。この3人の中では草間が最年長、次が田中、そして小野となるのですが、田中敦子といえば、 なんといっても1956年に制作された『電気服』でしょう。9色のエナメル塗料で塗り分けられた電球約80個と管球約100個からなる伝説的なアート作品で、この作品のインスピレーションとなったのが、当時の大阪のネオン街、町工場の技術や都市化の風景だったと言われています。電球と管球を組み合わせて作られた、チカチカと明滅する「光の服」に見立てた奇抜すぎるアート作品は、当時としては相当ラジカルなものだったことが想像できるはずです。
その翌年の1957年、大阪市の産経会館(現サンケイホールブリーゼ)で開催された「舞台を使用する具体美術」展において、田中はその服を着用してパフォーマンスを行います。顔と手以外をすべて覆ったまま光が点滅するというもので、本人も「死刑囚の気分だった」と語っていたほど緊張に満ちたものでした。このパフォーマンスによって、彼女は「服」という日常的なアイテムを芸術として提示しただけでなく、電線や電球といった工業的な素材を使ったこと、そして電気が点滅する光の中で自らが作品となったことによって、アートと身体の関係を問い直すような「パフォーミングアート」の先駆者とも考えられているのです。
この『電気服』を制作したことがきっかけとなり、1960年代中期に田中が新たに生み出したのが、円と線のモチーフを多用したポップで躍動感のある抽象的絵画でした。キャンバスに色鮮やかな大小の円を画面に配置し、その間を無数のカラフルな線が縦横し斜めに走らせたリズミカルな構図は、電気の流れを想像させる新しい感覚が内包されていました。油絵ではなく合成樹脂やエナメル塗料を使うため光沢感があり、通常の絵とは異なる質感や量感があるのも特徴でした。資料によると、円は「電球」と「細胞」を、線は「電流」と「つながり」を象徴しているそうで、人間や社会、技術、感情など、エネルギーの躍動感を表現し、さらに動きや振動を感じさせる要素は、絵画とテクノロジーの融合を実現させたとまで言及する人もいます。
戦後の50〜60年代当時の抽象的表現を振り返ると、色や線、面といった形而上的な探求に陥りがちだったのに対し、電流や光といった物質性や動態性を感じさせる要素を持ち込んでいたことは注目すべきことです。吉原治良*1が主宰した具体美術協会「GUTAI」の中心的メンバーの一人であった田中は、工業製品や電気装置を芸術の素材として大胆に取り込んだだけでなく、自らが作品となることで、作品を物としてではなく、行為や身体を芸術として可視化したことも特筆に値します。『電気服』や平面作品が単に派手な光る服やカラフルな絵というのではなく、ジェンダーや身体性、テクノロジーへの問いかけがなされていたわけで、そういった作品の背後にある問いや構造や時代性などを読み解く必要があるはずです。
田中は、戦後日本の男性優位の前衛美術運動において目覚ましい活動を展開し、後のメディアアートやパフォーマンスアートの文脈を先取りしたばかりか、自分の身体を作品にしたという点でフェミニズムの観点からも高く評価されています。彼女の認知度や知名度は海外においても非常に高く、例えば、ニューヨークの「MoMA」やパリの「ポンピドゥー・センター」なども田中の作品を所蔵し研究の対象としていますし、現在開催されている『アンチ・アクション:日本戦後絵画と女性画家』においても、主体的に戦後美術の要請に応答した中心人物として焦点を当てられています。このような田中の前衛的な活動や作品は、性別や時代的制約を超えて今もなお評価が著しく、国際的な美術史の文脈において今後ますます重要視されていくのではないかと思うのです。
1. 戦後日本の前衛美術を牽引した抽象画家であり、具体美術協会の創始者。「人のまねはするな」という言葉をモットーに、革新的なアートを追求し、多くの芸術家を育てた。

『田中敦子と具体美術協会―金山明および吉原治良との関係から読み解く』(大阪大学出版会)田中敦子に関する初の研究書。彼女の作品の独創性を考察し、その特質がいかに形成されたかを明らかにする。巻末には田中本人が自作を語った貴重なインタビューも収録。
展覧会情報
『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』
会期:12月16日(火)~2026年2月8日(日)
会場:東京国立近代美術館
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
中島泉著『アンチ・アクション』(2019年)のジェンダー研究を足がかりにして草間彌生、田中敦子、福島秀子、宮脇愛子など、14人の日本の女性の美術家による1950〜60年代の作品を紹介する展覧会。
https://www.momat.go.jp/exhibitions/566
文/河内 タカ
高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジに留学。NYに拠点を移し展覧会のキュレーションや写真集を数多く手がけ、2011年長年に及ぶ米国生活を終え帰国。2016年には海外での体験をもとにアートや写真のことを書き綴った著書『アートの入り口(アメリカ編)』と続編となる『ヨーロッパ編』を刊行。現在は創業130年を向かえた京都便利堂にて写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した様々なプロジェクトに携わっている。この連載から派生した『芸術家たち 建築とデザインの巨匠 編』(アカツキプレス)を2019年4月に出版、続編『芸術家たち ミッドセンチュリーの偉人 編』(アカツキプレス)が2020年10月に発売となった。
























![アルヴァ・アアルト コレクション プラター 25cm[W250×H15mm]¥7,700、15cm[W150×H15mm]¥4,950、センティッドキャンドル[W92×H80mm]¥11,000、イッタラ ガラスドーム[φ約160×220mm]¥28,600 (以上イッタラ) その他スタイリスト私物 *プラター25cm、15cm、キャンドルは12月10日発売予定。〈イッタラ〉の美しいデザインとともに、ハートウォーミングな時間を。2025年のホリデーギフトセレクション。 アルヴァ・アアルト コレクション プラター 25cm[W250×H15mm]¥7,700、15cm[W150×H15mm]¥4,950、センティッドキャンドル[W92×H80mm]¥11,000、イッタラ ガラスドーム[φ約160×220mm]¥28,600 (以上イッタラ) その他スタイリスト私物 *プラター25cm、15cm、キャンドルは12月10日発売予定。〈イッタラ〉の美しいデザインとともに、ハートウォーミングな時間を。2025年のホリデーギフトセレクション。](https://img.andpremium.jp/2025/12/27090338/b69203e9aabd03d11385d3e37cd9426c-300x300.jpg)


